「人間の情けない本音・・・元々情けない人間のほうがしっかりして見えてくる」松ヶ根乱射事件 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の情けない本音・・・元々情けない人間のほうがしっかりして見えてくる
『リンダ・・・』で一躍有名になった山下敦弘監督の作品。今回の映画はそれ以前の作品、特に山本浩司が主演している『どんてん生活』、『ばかのハコ船』、『リアリズムの宿』と同じような空気を感じてしまう。人間の持つ生来の姿・・・情けなさ。しかも憎めないほどの愛らしさを併せ持つ二面性をブラックに描いています。
鈴木家を中心とした普通(?)の田舎の家族と、田舎町に似合わない胡散臭いカップル、そして知的障害を持つ娘に男たちの欲望が繋がっていく人間関係が、事件など起こりそうもない平穏な田舎の空気をかき乱していく物語。中心は派出所勤務の鈴木光太郎(新井浩文)と彼の双子の兄である光(山中崇)。性格も生活態度も正反対であるかのような二人なのですが、どちらがしっかり者であるかということを父親役の三浦友和の洞察力によって看破されていく過程が非常に面白い。
平和な田舎町にも人間本来の性欲がところどころに映し出され、明らかに犯罪者であるカップル(木村祐一、川越美和)が町に住み着いたことによって、平穏な空気も澱ませてゆく。冒頭の氷原で倒れている女が検死する最中に息を吹き返すという意外性でワクワクもさせられるが、そこからは山下ワールド全開となり、その点では何も進展しない!ひき逃げ、金塊、アイスピックという小物の伏線によってサスペンス映画のように監督の新境地を魅せてくれるのかと思えば、そうでもない。とにかく、澱んだ空気によって人間の本音が見えてくるところが見せ場なのです。
闖入してきた犯罪者、娘に売春させる母親、家出してその娘を孕ませる父親、ひき逃げをネタに恐喝される兄。誰が一番悪いんや?と疑問を投げかけるところはあっても、自分に後ろめたいことがあるため告発すらできない。人には誰しも心の中に“悪”が潜んでいるのかもしれないが、その“悪”を断ち切ることができないもどかしさ。天井を走るネズミを捕まえることができないというもどかしさがそれを象徴させているのが興味深いところです。
オフビート感の演出が巧い山下作品ですが、この映画で笑える人はある意味凄い。自分にも悪いところがあるなと痛感しながらも、それを認めて情けない部分を笑うことなんだから。でも、木村祐一の金塊エピソードは笑える・・・
【2007年5月映画館にて】