劇場公開日 2007年2月10日

華麗なる恋の舞台で : 映画評論・批評

2007年2月6日更新

2007年2月10日よりBunkamuraル・シネマにてロードショー

歴史もイデオロギーも超越したサボー監督による痛快コメディ

画像1

1938年のロンドン。マンネリに陥っていた大女優ジュリアは、アメリカ人の若者トムと恋に落ち、情熱を取り戻す。だがそれも束の間、トムには若い恋人ができ、しかも駆け出しの女優であるその恋人は、トムとジュリアの関係を利用して役を得る。傷心の大女優は、なす術もなく現実を受け入れていくかに見えるが、最後に鮮やかな逆転劇を演出する。

イシュトバン・サボー監督の新作には、ナチズムも共産主義も東西冷戦もハンガリー史もない。何とも軽やかで痛快なコメディなのだ。しかし、そこには、「コンフィデンス/信頼」「メフィスト」「ハヌッセン」「ミーティング・ヴィーナス」「太陽の雫」といったサボーの監督作に通じる世界が確かにある。彼の映画では、激動する時代のなかで現実が歪み、崩壊し、主人公たちは、生きるため、望みを叶えるために、もうひとりの自分を演じる。

ジュリアの前には、彼女を女優に育て上げた亡き座長が、守護霊のように現れる。彼はかつて、駆け出しの女優にこう語った。「舞台で演じている時は、劇場こそが唯一の現実だ。劇場の外で大衆が“現実の世界”と呼ぶものは、空想に過ぎない」。ジュリアは、そんな恩師の言葉を実践し、人生の転機を乗り越えていくのだ。

大場正明

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「華麗なる恋の舞台で」の作品トップへ