「.」ダーウィンの悪夢 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて鑑賞。タイトルから環境問題系、或いは生態系の噺かと思ったが、貧困に喘ぎ、負の連鎖から抜け出せないタンザニアが抱える根深い問題を炙り出すドキュメンタリー。人類発祥の地とされるアフリカ中心部に位置するヴィクトリア湖周辺が舞台。この広大な湖にバケツ一杯のアカメ科の肉食魚ナイルパーチを誰かが放流した事から全ては始まった。その姿は知らずとも白身の魚として愛食されており、作中にも輸出先として我国の名が登場している。何となく漠然と知っていたとしても、ここで突き付けられる現実を直視すべきである。65/100点。
・開始早々から自然光による暗い画面と独特の喧騒や騒音等の観辛さが気になったが、普段馴れ親しんでいるのが造り込まれた虚構の世界であり、製作当時の等身大が写されたドキュメンタリーである本作が自然であると間もなく気付かされた。色々考えさせれたが何分、十数年前の作品なので、現状を知らず、調べてみようかとも思ったが、想像の範囲内ではないかと躊躇ってしまった。
・魚加工工場のごくごく限られた一部のホワイトカラーの連中を除き、登場する現地のアフリカ系の方々は痩せ細った体躯か稀に細マッチョ(と云うかガリガリマッチョ)系ばかりで、対する非アフリカ系(主に外国人)は恰幅が良いか、それ以上の体格の者しか登場せず、非常に対照的であると同時に本作の描く問題意識が、ビジュアルとして一目瞭然に顕されていた。
・前任者がなたで惨殺されたと云う一晩1ドルで雇われている魚の研究施設の夜警は、侵入する賊に対し、毒を塗った弓で対抗すると云い、傭兵として戦争にも参加したし、何人殺したか判らない、勉強してこんな暮らしから抜け出したいがチャンスも職も無いと、笑顔を絶やさず答える──ニヤケた愛想嗤いを崩さないのに憐れみよりも寧ろ生理的にゾッとした。
・自生するワニと疾病に慄き乍ら捕獲されたナイルパーチは、従業員千人を抱える工場のオーナー自らが供給過多気味と答える。加工済みの切身はヨーロッパや米国、アジア諸国に持ち出されるがその際、武器や爆薬等が携行され、紛争地域へと墜落機の残骸があちこちに散在する警備の緩いハブ空港として現地が利用されている。
・一方、高価過ぎるが故、現地では加工後のアラや頭と云った捨てられるゴミを廉値で引き取り、僅かに骨にこびり附いた蛆虫塗れの魚肉やアラをおこぼれにあずかろうと空を舞う野鳥と競う様に食す。腐る寸前のこのアラが発するアンモニアガスで眼が潰れ、腹具合が悪くなるが、選択肢は無く、群がる子供達はアラが入っていた容器を燻したけケミカルな煙を日常の恐怖の代償としてドラッグ代わりに楽しむ。
・男女を問わず、幼き頃からDVや性的虐待を繰り返し受けていた子供達は早くに家を追い出され、ストリートチルドレンと成り果てる。女性なら上手く農家に嫁いだとしても、亭主は程無くエイズか出稼ぎで取られてしまい、娼婦に身を堕してしまう(インタビューに答えていた娼婦の一人は、後半で外国人パイロットに殺されてしまう)。避妊は宗教的に禁じられ……と思わずごく一部を書き出したが、とても書き切れない程の問題が山積しており、正に悪夢のグローバリズムが展開され、鑑賞者の良心が試され続ける。
・鑑賞日:2017年12月8日(金)