サラバンド : 映画評論・批評
2006年10月10日更新
2006年10月21日よりユーロスペースにてロードショー
ベルイマンの冷徹な眼差しが作り出す、張りつめた空気の愛憎劇
ベルイマンが最後の作品として撮った20年ぶりの新作は、「ある結婚の風景」(74)の続編である。登場人物の1対1の対話を通してその心理を炙り出していく演劇的なスタイルは、TVシリーズを再編集した前作よりも純化され、老いや孤独に向けられた冷徹な眼差しが、10章から成るドラマのなかに、厳格で張りつめた空気を生み出していく。
63歳になるマリアンは、30年前に別れた先夫ヨハンのもとを訪ね、この老人と彼の息子ヘンリックと孫娘カーリンの間で繰り広げられる愛憎劇に関わる。ヨハンはヘンリックを金と憎しみで縛り、ヘンリックはカーリンを音楽と歪んだ愛情で縛ろうとする。マリアンは、第三者的な立場にありながら、心理的な次元ではこの愛憎劇に深く引き込まれている。3世代の親子の要となり、2年前に亡くなったヘンリックの妻アンナ。彼女を通して、自分の生を見つめているからだ。
この映画は、マリアンが、人生の記録である写真の山を前にして、自分を語るプロローグから始まり、再びそこに戻るエピローグでは、アンナも彼女の人生の一部となっている。写真に刻まれた過去といまある彼女との距離は変化し、彼女は穏やかな心ですべてを受容しているのだ。
(大場正明)