劇場公開日 2006年8月12日

「「イントゥ・ザ・ワイルド」より好き」狩人と犬、最後の旅 あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「イントゥ・ザ・ワイルド」より好き

2009年5月7日
鑑賞方法:DVD/BD

難しい

幸せ

前々から気になっていた本作は2004年製作のフランスなどが合作した作品。この手の、人間の自然生態系との関わりを描いた作品になると、ほんとにフランスはうまい。

主人公はロッキー山脈の自然の中で狩人として妻と、そして犬たちと生活を営んでいる初老の男性。長年そういった生活スタイルを誇りを持って続けていたが、近頃は企業の森林伐採によって生態系が崩れ、思うように狩りができない。自分もやはり狩人を引退して、人間社会に戻るべきなのか否か。

本作のレンズは、そんな狩人の悩みに焦点をあてるのでなく、そんな状況でそれまでと変わらず妻と犬たち、そして数少ない友人との触れ合いに当てられているのです。

自然の生態系を守るためには、人間は弱い生物をどんどん狩っていかなければならない。そうやって数を調整し、一部の種族が異常に繁殖するのを防いでいる―こんな語りなどは、なかなか慧眼に富みとても勉強になる。

自然の中で、人間がもつ役割はちゃんとあるが、この映画が秀逸なのは次のメッセージである。

それでも人間は自然の中で生きていけないのだ。

つまり野生動物や犬たちのように、厳しい自然に生きていける身体能力を、人間は、持っていないのです。

先に見た「イントゥ・ザ・ワイルド」は闇雲に自然を崇拝し、そこに同化しようとする人間が描かれていたが、本作は荒野の中にいる人間を通して、自然との共生とはなにも野生に帰っていくことではないのだという大人なメッセージがある。

地に足をつけた描写で、淡々と狩人の生活を描き、観る人の想像力に力強いメッセージを宿らせる本作は、アート作品として素晴らしい出来栄えでした。

あんゆ~る