「物足りない」鉄コン筋クリート くんぞうさんの映画レビュー(感想・評価)
物足りない
原作は未読。
あまりハマれなかった。
孤独でいつか力で全てを手に入れられると思っている子供と奔放で不思議な子供が、汚れが渦巻く社会に憧れそれを象徴する街を舞台にした妄想話。と考えれば少しは納得がいくかもしれない。
見る前、見ている途中(主に前半)はかなり期待を維持していたが、段々お話運びが雑になっていき、終盤は延々とそれらしいイメージ映像を連ねただけになって何が言いたいのかわからぬままに映画が終わってしまった。ヤクザとかいつの間にかいい奴っぽい扱いをされてたが、序盤の汚い人間の雰囲気はどこにいってしまったのやら。そしてなにより結局主人公成長してなくね?最初と同じじゃね?なのに何故かメッセージ性というか、テーマみたいなものをセリフでずっとしゃべっている。シロとクロ。この二人のお話が一応のメインなのだが、二人が引き裂かれるきっかけにあまり腑に落ちず、そこからお話がだんだん納得がいかずどうでもよくなっていった印象である。
そして気になっているのが、時折出てくる超能力的なものはなんなのだろうか。殺し屋の三人組とか。作品の中のリアリティも欠けてしまっていると思う。クロの跳躍力はどう見ても人間じゃない。序盤のヤクザの事務所みたいなとこで起こるクロの暴力シーン、あそこはとても面白かった。この世界観で暴力を主軸の話にするなら新鮮かもと。…そんなことは起こらずな結末に。後半など特にそうだが、この広げた風呂敷をやっつけで畳もうと無理に描いたイメージ映像に、何か特別な深い意味をくっつけられる人は、それはもう素晴らしい一昨になるのではないだろうか。
悪いところばかりではなく、とても面白く見た所もいくつかある。とくに作画と演出と美術。これは恐ろしくよく出来ていた。これだけを見るのでも価値はある。あのレトロヒューチャーみたいな街など、あそこに行って見たい!と終始思っていた。ぐるぐる動く作画も新鮮で、同じ実験的な絵作りで有名なシャフトの「魔法少女まどかマギカ」より全然素晴らしいと思った。演出も、会話中も常に飽きさせない工夫を凝らしていて好感が持てる。それに付け加え声優陣もとても良かった。主演二人の二宮和也と蒼井優の演技は文句のつけようがない。
総合的に、いい所はあるものの、あまり自分には響いてこない雰囲気映画かなあと思ってしまった。