「そこじゃなくない?」父親たちの星条旗 いもりりさんの映画レビュー(感想・評価)
そこじゃなくない?
戦争アクションとしては中々見応えがある。が、それだけ。
真面目な戦争映画としてはズレていると感じた。
この映画は、硫黄島の戦いにおいて、たまたまアメリカ国旗を掲げたに過ぎない者が、
本国で英雄視され、政治宣伝に利用されたことによる葛藤を描いている。
彼らの葛藤の根本は
「自分は英雄ではなく、真の英雄は他にいるのに…(世間はそこをわかってくれない)」
ということであるらしく、映画の描写の大半はそこに割かれる。
しかし、その葛藤自体、見誤ってはいないか。
なぜなら、世間は、彼らに特別な能力や功績がないことは知っているのだから。
つまり世間も、彼らが真の英雄ではないことはわかったうえで、
彼らを戦争のシンボルとして祭り上げたにすぎない。
彼らに、兵役で死んだ自分の息子やらを重ねただけである。
にもかかわらず、「大衆には偽者と真の英雄の違いもわからない」
ことを前提にプロパガンダを描くのは、大衆を馬鹿にしている。
そして、そもそもこの葛藤自体が幼稚ではなかろうか。
個人の能力とは関係ないところで脚光を浴びることは、長い人生の中では割とあること。
重要なのは、そこで実力のなさや、本来脚光を浴びるべき他人を慮って苦悩することではなく、
そういうものと割り切ったうえで、自分やその他人のためにどう行動するか、だろう。
この映画は、彼らを政治に振り回された被害者であるかのように描いているが、
個人的には、彼らは折角の機会を生かせずに勝手に自滅しただけで、自業自得だと感じた。
「利用されたこと」で彼らが失うものはなかったし、利用自体の強制力もそこまでなかったのだから、
一種の偶像として祭り上げられていることは自覚して開き直ったうえで、
いまのうちだけと思って、戦友のために活動するなり、権力者のオファーに乗るべきだった。
この映画の描き方では、そういう感想をもたざるを得ない。