「硫黄島の戦いの実像と、帰還後の英雄としての活動の苦痛、戦争の真実を伝える映画の役割」父親たちの星条旗 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
硫黄島の戦いの実像と、帰還後の英雄としての活動の苦痛、戦争の真実を伝える映画の役割
戦争そのものの狂気を描いた硫黄島からの手紙の米国版ということで、少し予想外であったが、戦争映画というよりも、戦争の体験、実像をどう捉えどう伝えるかという映画の様であった。少なくとも、硫黄島の戦いで英雄とされた3人の主人公達だが、戦争の実態とはかけ離れた虚構。国債を広く買ってもらうための広告塔、模像的なヒーローであることを知らされた。
イメージとは異なりあの写真にある星条旗は、山上に立てた最初の旗を高級将校が欲しがったため、その後に交換するための星条旗ということなのだ。
死んでいった仲間たちも、味方の誤爆でやられてしまったりしてて、決してお国のためにと思って勇敢に死んだ訳ではない。ただ皆、仲間たちを大事に思い、仲間たちの迷惑にならない様に役割を必死に努めたことは疑いの無い事実で、言わば硫黄島に行った全員が英雄と訴えている様に思えた。
星条旗を掲げて生き残った主人公達、英雄扱いされた3名、特にアダム・ビーチ演ずるインディアンのアイラ・ヘイズはヒーロー扱いに苦しみ酒浸りとなり戰後行き倒れ的に死亡。ライアン・フィリップによる衛生兵ジョン・ドク・ブラッドリーも戦争の悪夢にずっと苦しめられる。ジェシー・ブラッドフォードによる伝令レイニー・ギャグノンは広告塔を積極的にこなし多くの知人を得たが、戰後の職探しでは全く役立たず。ということで、戦争体験が個人的には全く役に立たず、ブラッドリーは家族にも戦争の話を一切していなかった。
なお、映画とは直接無関係だが、ドク・ブラッドリーが実は星条旗掲げた6名ではなかったことを、2016年米国海兵隊が認めたとのことで驚かされた。彼はそれを知っていた上で英雄演ずる国債キャンペーン活動をしたのだろうか?
回想的に挿入される幾つかの戦闘シーンは相当の迫力。生き残ったのは単に運が良かったとしか思えない縦横無尽に銃弾が飛び交う世界で、みじかな仲間たちが呆気なくやられてしまう世界。敵に見るも無惨にされてしまう世界。こんな恐ろしい戦場で良く行動が取れるものだと感心させられる映像であった。
英雄扱いせず、戦争反対と括らず、静かに淡々とだが、戦場における彼らの闘いの真実の姿そのものを、今生きている人間はきちんと記録・記憶しておくべきとクリント・イーストウッド監督は主張している様に思えた。本映画が有するその知的で俯瞰的な視点に静かな感動を覚えた。