「自然体を貫く二宮」硫黄島からの手紙 BBさんの映画レビュー(感想・評価)
自然体を貫く二宮
二宮の大出世作ということで,前から見てみたかったのだが,戦争物は後味がどうしても悪いので敬遠していた。でも,思い切って見てみて,よかった。これが,ジャニーズの二宮?と思えるような役。アイドル的に何のメリットも感じられない。ヒーローとは真逆で,まったく格好よさはなく,むしろ弱く情けなく惨めで,これ以上の汚れ役はないだろう。けれど,それがなぜかはまるのが二宮なのだ。彼は,この映画の主役かと思えるほど光っていた。「天皇陛下万歳!」の世の中にあって,二宮はいたって普通の人間だ。体制に逆らいはしないが,決して嘘で飾りたてた言葉は使わない。友達には本音でぶちぶち不平を言うし,人一倍生への執着も強い。格好良い軍人になる気も毛頭ない。ただ日本へ帰って,家族と会いたいのだ。それが,ひしひしと伝わってきた。友達や上司の死を目の当たりにしてきても,あきらめにも似た表情を貫いてきた二宮が,ラストで感情を爆発させるシーンは圧巻だった。自然にあふれ出る大粒の涙,初めて怒りと憎しみを露わにアメリカ兵に立ち向かう姿が,目に焼き付くとともに,戦争そのものの悲惨さを強く訴えかけてきた。イーストウッド監督も本当にすごい。日本人の監督以上に,軍国主義の日本をリアルに描き,日本とアメリカを公平な目で見ている。伝えたかったのは,ただ一つ戦争のむごさと,繰り返してはいけないということだろう。そして,日本の俳優陣の魅力をあそこまで引き出す手腕もお見事である。まさにプロの仕事である。
ただ一つ,リアリティーに欠けたのが,二宮が結婚していて,子どももいるという設定。パン屋も似合っていないかな。年齢的には無理はないのだろうが,坊主刈りの姿は,どう見ても学生にしか見えない。共演した加瀬亮のように待っている母がいるとか,せめて恋人がいるという設定のほうが,見ている方がより感情移入しやすかったように思う。まあ,全編を通して言えばたいしたことではなく,減点しても満点である。