「爽快感と憧憬感覚」明日に向って撃て! keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
爽快感と憧憬感覚
専ら家観している旧作・名作の中から、半世紀前に制作された本作を取り上げます。
上映された当時、映画界を席巻していたアメリカン・ニューシネマの代表作の一つとされる本作は、その典型的パターンである、社会からの逸れ者=アウトローを主役にして、その犯罪行為や反社会的行動を称賛しつつ悲劇的結末に終わらせる、という枠組みを一見準えながら、決して『俺たちに明日はない』『イージー・ライダー』『ワイルド・バンチ』のように、鑑賞後の悲壮感や沈鬱感、寂寞感はなく、逆説的ですが爽快感や憧憬感覚さえします。
バート・バカラックのあまりにも有名な主題曲「雨にぬれても」に象徴されるように、陰惨で暗鬱な表現は皆無であり、終始エレガントでユーモラスでソフィスケートな映像で構成されます。
当時、脂の乗ったポール・ニューマン、新進気鋭のロバート・レッドフォードの両雄が、各々の役を楽しみながら奔放に愉快に演じているのが伝わり、深刻なシーンであっても、スクリーンに漂う空気はあくまで陽気で明朗で且つリズミカルで、気持ちを浮き立たせてくれます。
ただ男二人だけだと、どうしても穢苦しさに陥る所を女教師役のキャサリン・ロスが加わったトリオになることで巧くバランスが取れ、一気に華やかさと気品が画面に広がり、ロマンチックな風味が加えられました。
自転車にポール・ニューマンとキャサリン・ロスが乗ってデートするシーン、台詞が一切なく、BGMの「雨にぬれても」だけが奏でられる、そのおしゃれで爽やかで心和む軽快な空気感の中に、二人が心一つになって戯れ合い快哉を叫んでいることに心から共感出来ます。この箇所は、映画史に残る名デートシーンだと思いますが、実はこれがシナリオには全く書かれていない、二人の完全なアドリブだったと知り、二人の演技力と共に名匠ジョージ・ロイ・ヒル監督の演出力に、只々脱帽です。
ただストーリーそのものは波瀾万丈でも紆余曲折するものでもなく、やや単調ですが、個々のシーン、特に遠景のカット映像構成の美しさは目を瞠ります。あのラストシーンのストップモーションの余韻にも芳醇の味わいがあります。更にシークェンスのつなぎ方には絶妙な技巧を感じます。その典型は、ボリビア渡航に至る静止画セピア色写真のカットを細かくカット割りしてつないだシーンです。少し退屈になってきた映像展開に刺激を与えて覚醒させ、後半への興味を唆らせる、効果のある変化でした。
時代に取り残され、それを自覚しながらも踠き苦しみ、それでも茫漠とした己の夢を追い求める、哀しくも可笑しい青春群像、これまで数多くの映画で取り上げられた素材を、名匠ジョージ・ロイ・ヒル監督が軽妙洒脱に仕上げた、青春西部劇の名作であり、50年の時を経ても全く色褪せない、映画史に残る傑作であることを再認識しました。