劇場公開日 2021年12月17日

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「【英国病、何か?】」夜空に星のあるように ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【英国病、何か?】

2021年12月23日
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社会の変化に翻弄される市井の人を初めて描いたケン・ローチのデビュー作だ。

第二次世界大戦後、イギリスは、労働党政権下で国民皆保険などを含む、「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる制度を導入した。

しかし、こうした制度導入のために様々な産業を国有化し、その後、保守党と労働党政権の交代のたびに、民営化・国有化を繰り返したことや、増税で、1960年代にはいると、経営改善や設備投資の減少で、イギリス企業は競争力を失い、ストライキも慢性化、人々の暮らしにも影響が出始めることになった。

これは、サッチャー政権の誕生まで続くことになるが、この約20年間の状態を英国病と呼んでいる。

ケン・ローチがこの作品を撮った時に、この英国病という呼び方があったかは定かではないが、この作品は、まさに、その時代に翻弄されたジョイの物語だと思う。

(以下ネタバレ)

まず、チャプターに「泥棒とは結婚しちゃダメ」というのがあったりするので、そもそも泥棒と結婚しちゃいけない、モラルとして信じられないみたいな意見があるけれども、世の中には泥棒をモチーフにした映画は沢山あって、「オーシャンズ11」は良いけど、この作品はダメということにはならないと思う。

それに、この泥棒というのは、僕には、人々の意欲を減退させる「何か」のメタファーのように思える。

トムのように外では人のものを盗み、家でも辛く当たるようなものもいれば、デイヴのように家では優しく家庭的で、外では人を傷つけることも厭わないものもいたりする。

まあ、娯楽映画の泥棒も似たようなものだという意見もあると思うが、社会制度にも既得権益化して、人々のためになっているのか分からないどころか、人々の生活を間接的に圧迫したり、搾取同然のものもあるだろう。

泥棒が単に非日常だとするだけではないものがあるのではないのか。

こんな社会システムに翻弄される人々は、現代にだって通じる話じゃないかと思う。

この作品は、こんななかで、受け入れるものは受け入れ、それでも希望を見出して生きようとする人の物語だと思う。

それが、エンディングのジョイの言葉だ。

ワンコ