「黒澤明だからこそ作れる作品。」用心棒 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
黒澤明だからこそ作れる作品。
〇作品全体
本作も『血の収穫』というハードボイルド小説を下地に作られたというから「オリジナル」と言い切ってしまうのは語弊があるように感じるが、本作に影響されて作られた『荒野の用心棒』をはじめとする作品群に触れると、映像作品としての魅力を改めて感じる。
流浪の男が現れ、街の抗争に踏み込み、優しさ故に窮地に立たされるもすべてを跳ねのけるラスト。このプロットは、例えば『荒野の用心棒』だと芝居やセリフも含めて同じなんだけど、時代背景の違いを差し置いても、人物の映し方や演出は、全く別物に見えた。
これは脂に乗った「黒澤節」がさく裂しているのが大きい。
キャッチーな劇伴と登場人物の気風の良いセリフまわしを要所において、ここぞの場面では構図でかっこよくキメる。腰の据わった時代劇でありながら魅せるところはド派手に魅せる感じが、明朗快活な物語とも巧く合っていた。
「ここぞの場面」として印象的だったのは、ラストで名無しの男が再び街へ姿を現したときのカット。
画面奥から堂々と歩いてくる名無しの男をボカシて映し、手前で座っている丑寅一家の子分にフォーカスを当てる。街で大きい顔をしている子分たちを大きく映し、そしてカット後半で名無しの男にフォーカスを当てる。復活の登場を手前奥の構図でかっこよく映しているのが印象に残った。
特に「黒澤節」を感じたのは、最後の最後で多左衛門が家から飛び出してくるところ。
太鼓を連打して、そのままの勢いで襲いに行く狂人っぷりは、物語の展開としても狂人っぷりを見ても、ザ・黒澤節だと思った。名無しの男のように逞しく、潔い展開で幕を閉じたいところでもう一癖入れてくるアイデアがとても面白い。
ワンシーンだけ切り取ればやりすぎかもしれない登場人物のアクションだが、物語の中で見ると個性的なアクセントになる。この黒澤節こそが登場人物が活き活きと見える秘訣なのかもしれない。
⚪︎カメラワークとか
・多左衛門の家を焼く卯之助のカット。燃える家からズームアウトするとほくそ笑む卯之助が…っていう構図の面白さ。卯之助役の仲代達矢の表情も良い。
⚪︎その他
・猪之吉がいいキャラしてた。そんなに登場は多くないのに爪痕残してる。かなりギャグよりなのに作中の世界に溶け込んでるのが絶妙だった。