「脇に収まらない脇役たち」用心棒 佐分 利信さんの映画レビュー(感想・評価)
脇に収まらない脇役たち
冒頭のクレジットみて驚いた。カメラは宮川一夫(大映)ではないか。調べてみると「羅生門」も彼の撮影。あれは主演の一人が京マチ子という大映の看板女優だったし、そういうことでいうと小津安二郎の「浮草」と同じ構図である。溝口健二ばりの奥行きのあるショットや心地よい移動カメラ。随所に宮川のセンスが光る。
この作品で、スチール写真が欲しいくらいに好きなシーンがある。ワンシーン・ワンカットのそれは、加東大介と山田五十鈴が三船敏郎を挟んで酒代を張り合う場面だ。これでもかというほどのバカ面を下げた加東、性悪女の山田、冷笑を浮かべる三船、三人の背後でかしこまる東野英治郎。日本映画の黄金期を支えた名優たちが4人並んだショットは壮観だ。日本映画がもっとも幸せだった瞬間をとらえたような写真である。
この作品の加東と山田は、それぞれが役者魂全開といった趣で、ほかの作品では大仰な三船の芝居がクールなことと相まって、撮影現場の盛り上がりが伝わってくるような芝居が続く。
加藤武や西村晃の小悪党ぶりも楽しい。モノクロ時代の西村晃はずるくて悪い奴の役が多く、いちど助さん格さんに懲らしめてもらったほうがよさそうだと思ってしまうのは私だけだろうか。
脇役を観ているだけも楽しめる、こうした作品を撮ることはもうかなわないのだろうか。おそらく、その暴力性ゆえに観ることを拒んでいる北野武の映画がそうした厚みを持っているのだろうと想像する。北野のあとは誰がいるのだろうか。
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