劇場公開日 1961年4月25日

「計算しつくされた、緩急のバランスの見事さ。」用心棒 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0計算しつくされた、緩急のバランスの見事さ。

2021年1月31日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

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先が読めそうで、読めない展開。

からっ風吹きすさぶ、がらんどうな宿場町。
宿場町の住人の、鬱々とした怒り、あきらめ。ー名主のたたく太鼓の音にすら、単なる仏への祈りというより、力任せになぶりたたいているようで、心の底にしのぶ怒りを響かせる。
欲の皮の、限界まで突っ張ったやくざな者たち。
悪戯小僧のような茶目っ気のある浪人。ー正義感と優しさがベースにあるのだが、正義感丸出しでというより、ちょっとかき回してやろうかい、みたいな、騒動を楽しんでいるような、余計なお世話的な動機がちらほら透けて見える。
すべてが、浪人の手の平の中で回りそうに見えたとき、
そのからくりを見抜く目をした男が帰ってくる。
そして…。

冒頭、雄大な山脈を遠景に、一人の男が歩いていく。
それだけで、引き込まれる。その音楽のリズムと、男の背中の揺れと、カメラワークの妙。
そして、棒を投げて、行き先を決める様。男の人生をー勝手気ままな放浪の人生をそれだけで説明してしまう。
 この時、浪人がさりげなくジャンプして投げている様がかわいい(笑)。重厚な雰囲気を漂わせる人物だが、重々しいだけじゃないんだ、この人(クスっ)。

お太鼓持ちの十手持ち、現状にいら立っている飯屋の親父と、余裕をかます浪人、いきがるやくざ者。ラスボスは女郎屋の女将。
 そのアンサンブルが、うまくハーモニーを醸し出し、混声合唱団の調べを聴いているかの如くはまる。
 茶目っ気のある浪人以外、コメディを演じているのではないのに、(笑)をさそう。
 要所・要所に挟まれる、スピーディな殺陣。
 親子の人情シーン。
 泥臭く這いずり回るシーン。
 浪人の作戦も、うまくいきそうに見えて停滞し、またうまくいきそうに見えて破城する。ハラハラドキドキ…。
 飯屋の親父と浪人の掛け合いが、浪人の無鉄砲を諫め、かばう父のようにも見え、この騒動が横糸なら、縦糸のように一本筋を通す。
 そして、さりげないシーンで表現する緊迫感…。鬼気迫る女郎たちの演奏・踊り。ラストの鬼気極まった名主。

そんなシーンを、ズームで撮ったり、俯瞰したり、遠近法を駆使したり。飽きさせない。

決着がついた後も見事。
ほっとしたのもつかの間、名主で緊張を高め、そして、あの台詞。この爽快感。

役者は、これもまた、『ウォーリーを探せ』状態。あんなところにあの人が…。
 三船氏はもちろん、東野氏がしっかり、三船氏の相方を務め、この宿場町の騒動を観客が共感しやすくしてくださる。怒った顔、呆れた顔、心配する顔。意外にも(失礼!)亥之吉を丸め込むように度胸がいい。
 山田さんは、「着物に線が出るから」と、着物をお召しになるときには、現代的なランジェリーではなく、昔からの和のランジェリーだけをつけたと聞くぐらい、”粋”を体現なさった方。なのに、この映画での業突く張りの婆ぶり。恐れ入りました。
 仲代氏は、切れ味鋭い男を演じてくださったが、『椿三十郎』と比べると、甘ちゃん。『渡り鳥シリーズ』とかに、出てきそうだ。だが、『天国と地獄』等でも違う印象の役を演じていらっしゃって、そのバリエーションの広さにしびれてしまう。
 そして、藤原氏。最後の最後に本領発揮。

『椿三十郎』と姉妹版だとか。
 こちらが先なのだが、私は後に見てしまった。
 だからか、よりコメディタッチな『椿三十郎』より、こちらの方が話の展開が緊迫感にあふれていた。
 『椿三十郎』の方は、加山氏演じる若侍達が、ぴょこぴょこついてきているから、多少説教臭くなっているが、その対比がおもしろかった。こちらは、東野氏演じる親父がハラハラしていたように、見方によっては騒動を大きくしている悪戯小僧。より、野性味があふれていた。
 仲代氏も、己の才能にうぬぼれて居るところは一緒だけれど、こちらが甘ちゃんに比べて、『椿三十郎』では、ある意味中間管理職。上司を手玉に取ろうとして、連座して失墜というあはれがにじみ出ていた。
 両陣営を手玉に取って、問題を解決しちゃうスタイルは同じだけれど、素材をいろいろな味付けで料理できる。やはり、黒澤監督はすごい。

とみいじょん