「数年前の医師の暴行事件を思い出してしまった…」ゆりかごを揺らす手 alalaさんの映画レビュー(感想・評価)
数年前の医師の暴行事件を思い出してしまった…
1992年の作品だが…いつまで経ってもこういうクズはいるんだな。性犯罪は訴えられることの方が少ないから、そりゃ無くならないよな。
最近は何故か被害者のフリして金ふんだくる女ばかり話題にするけど、性犯罪者の方は相変わらずほとんど話題にしない。もっと厳しくしてほしいもんだ。
割と多いのが「やられる方が悪い」「訴えないのが悪い」という謎の言い分だけど、本作では被害者が訴えるかどうか悩むシーンもあります。
現実には訴える人より、本作のようにまず「自分の勘違いだったら」「そこまで大事にして良いのか」と二の足を踏む被害者の方が遥かに多いそう。
自分だって、明らかに嫌がらせや暴行されたと思っても、訴えるとなったら「そこまで大騒ぎするのもな」とか「相手の立場が」とか、上司や親戚等で周囲に信頼されてる相手だったら「こっちが嘘吐き呼ばわりされるのでは」とか、色々考えてしまうと思う。運良く有罪にできても出所後の逆恨みも怖い。
「被害者が悪い」と言う人は不当な目に遭ったことが一度もないのか、不当な目に遭うたび自分の意見を主張してそれが必ず通って、周りの理解を得てきたのか、どっちなんだろ?どちらにせよそこまで人生イージーモードの人いるんだなぁという感じですが。
あらすじ:
2人目の子供ができ、夫マイケルに乳母を雇ってはどうかと提案されたクレアは、乳母募集の旨を聞いて訪ねてきたペイトンを住み込みで雇い入れる。が、それはクレアに性的暴行をして訴えられ、訴訟を怖れて自殺した医者の妻ペイトンだった。夫が訴えられたうえ自殺したことで財産を差し押さえられ、ショックで流産したペイトンは、ニュースでクレアの存在を知り、復讐のためクレアの家庭を侵食していく。
いやー、勿論ペイトンもクズなんだけど、大元のクズは医者。患者に性的暴行を繰り返したうえ、訴えられたらビビって身重の妻を置いて自殺。謝罪の遺書すらナシ。何じゃコイツ。
ペイトンが「夫だけが私を理解し愛してくれた」と寝言ほざくシーンがあるんですが、どう考えても愛してないし理解もしてないよね。家族を本当に愛してたら、まず自分の立場利用して患者に暴行なんかしないんすよ。自分の欲望に忠実すぎるんすよ。どの辺に愛感じたの?
ペイトンは天涯孤独らしいから、せめて夫だけでも心から愛してくれてると思い込みたかっただけ?可哀想とは思うけど、だから何?としか…(冷酷)
不幸だからって他人の幸せを壊して良い理由にはなりません。
一家にあんだけ親切にしてもらっといて、よくそんな酷いことできるなーとただただ驚き。冤罪でもないのに「夫は殺された」とか被害者ぶってるのも驚き。流産も言ってしまえば夫のせいだよね。クレア悪くないよね。これでクレアが悪いことになるなら、極悪人でも家族さえいれば何しても許してもらえるってことですし。
……へー、家族って便利だなあ!!!
タイトルに書いた医師の暴行事件ですが、何故思い出したかというと、その事件を解説したブログのコメント欄で、医師を庇ってかなり強烈な嫌味と悪口を書き散らかしてた人が、ペイトンと被ったから。
「報道内容が事実なら、こういう理由で医師側が不利」という内容に対し、「女同士で庇い合ってるのか女を庇う気持ち悪い男なのか知らないけど、冤罪だったらどう責任取るんだ!」とかなりいきり立ったコメントしてたので、身内なのかな。
そして印象的だったのが、このニュースのコメント欄の意見が、一度目と二度目で真逆だったこと。
初めてこの事件の記事を見た時は、ほぼ全てのコメントが「記事が事実なら医師のこの発言とこの行動がおかしいし、病院のこの対応もおかしい、だから医師側有罪はほぼ確定だろう」という、根拠も示した冷静な内容でした。
次に載った記事は、被害者が「妄想で騒ぎ立てて医師の人生を台無しにした」と責められ嫌がらせを受けている、という内容。こちらは先の記事にあった被害者側の話を更に掘り下げており、こちらの方が明らかに「事実ならほぼ確実に医師が有罪」となるべき内容でしたが、コメント欄は前回から一転「女が嘘をついてる!」「医師を嵌めようとしてる!」というコメントだらけで、「医師が有罪だと思う」はかなり少数派に。
こちらは根拠をあげることなく「また女が嘘ついて金を巻き上げようとしてる」「どうせせん妄なのに女は性犯罪になると途端に大騒ぎする」等、ただの悪口ばかりで強い違和感を覚え、まさか身内や医師団体でコメント欄ジャックしたりしてんのか?と怪しんでしまったのでした。
大企業などは専門の弁護士がついており、一般人の訴えは大概揉み消されると過去に言われたこともあり、更に疑惑に拍車をかけ…いや、流石に考えすぎかな。
でも恐らく、こういう思い込みの強い人、身内が悪くても何が何でも庇おうという人は世の中に一定数いて、中でも金やコネがあるそういう人間に何かの拍子で関わってしまうと、それが客観的に見て逆恨みだろうと何だろうと、クレアのように執拗に纏わり付かれるんではないかな。
その事件でも、苦労して裁判に勝てても、今後通う病院が加害者のお仲間の場合もあるのでは?と思ってしまった。
ちなみに医師団体を味方につけ、「これでは今後女の患者は診察できない」と世間に対し脅迫まがいの発言したりと清々しいまでの開き直りだった医師が結局有罪。恥を知らない奴ってすげーな。
被害者にとって逆恨み、周囲の無関心や面白半分や歪んだ正義感による嫌がらせ、セカンドレイプ等、事件後も恐ろしいことは山積みで、極めて告発しづらい。それをわかってるから加害者もつけ上がる。負のスパイラルです。
そういう意味では、本作は被害者にとっての根本的な解決策を示してはおらず、「被害を告発するとこうなるかも」と世の被害者達にとって失望しかない内容ではありました。
また、1992年の映画にしてはほぼ差別的な描写はなく、作中でハッキリ口にしないのに、見る側に「あ、これ差別では…」と気付かせるような表現になっています。まず不快な発言がほぼない。これが1992年?結構、先進的と言って良いのでは。
クレアの幼馴染でバリバリ働くマーリーンの台詞「女は大変よ。何千万稼いで夫のセックスの相手して、料理まで作らなきゃいけないんだから」(で、この後夫に「料理は下手だけどな」とバラされ皆で爆笑)。
いや、この時代何千万ドル稼いでる女性の設定も凄いけど、1992年時点で映画にこの台詞をドーン!と入れるのも凄い。
1990年代の映画なんてほとんどが専業主婦、良くて低収入のパート程度で、家事育児に追われてて…という設定ばかり。で、社会的に「専業主婦は楽してる」イメージなので、当然「女は大変よ」なんて台詞は入れられないし、入れようとも思いつかなかったでしょう。むしろ「夫のセックスの相手や家事育児をやらない妻は存在価値がない・夫に見捨てられる⇒生きていけない」というような、ネガティブな意味で「女は大変(ていうかただの弱者)」を表現する作品が多かった気がします。
が、このマーリーン、めちゃくちゃ有能。
思い返すと、本作で活躍するのは社会的弱者と呼ばれるような人々なんですよね。
ペイトンの正体の決定的証拠を掴むのがマーリーン、ペイトンから助けてくれるのが黒人の障害者ソロモン、そしてペイトンをぶっ飛ばすのが主人公のクレア。
こういう命を狙われラストで攻防するような映画って、大抵夫や彼氏が「弱者を守るカッコイイ俺!」と言わんばかりに割って入ってきて、個人的には「いや毎度毎度タイミング良すぎだろ」と白けてしまうんですが、本作は夫マイケルが途中リタイア。ソロモンも暴力は振るいません。あくまで主人公クレアと悪役ペイトンの戦い。かといって面白おかしく過剰に「女同士の争い」をアピールしてはおらず、終始「家庭を乗っ取られそうになった主人公がそれを取り戻す」という設定に一貫しています。
単純に主人公の強さや成長を見せてほしいといつも思うけど、女主人公だと特に昔はなかなか無くて…
途中退場といっても、クレアに花を持たせるためにあからさまに腰抜け設定にされてるわけでもなく、妻のことをよく気遣い、冷静で、そこそこ勇気もある、良い意味でフツーっぽい夫。できることを精一杯やっての退場なので、わざとらしくなく格好良いし、キャラを無駄に持ち上げも下げもしないリアルな展開で好印象でした。
次に、上にも書きましたが黒人の障害者ソロモン。若干知的障害があるかと思わせる表現はあるものの、台詞でハッキリ示されるわけではないため、初対面の時ペイトンが嫌な顔をしたのが何に対してなのかも、ハッキリとはわかりません。が、ペイトンの設定が金髪碧眼の白人・美人でちやほやされる・金持ちなので、恐らくソロモンが黒人・挙動不審で人に距離を置かれる、稼ぎが良くない(汚れた格好)とわざと対にしているのかなと。
でも、そんなペイトンですらあからさまな差別発言はしません。まあ「アンタみたいな馬鹿と違って私は信頼されてる」とは言いますが。いやソロモン信頼されてるし~~~~!!!ソロモンの信頼が崩れるならお前の信頼なんて崩れるの一瞬だし~~~!!!!(遠吠え)
この差別とも何とも言えない、いや絶対に差別的な意図はあるんだけど、本人は認めないからハッキリとはわからない…というモヤモヤした感じ、凄くリアルだなと思いました。言われた本人しか感じ取れない、人に話しても「感じ悪いだけで差別かどうかはわからない」とか言われて終わるような、計算ずくの微妙な言い方だったり、自分が信頼築いてるのを逆手に取って人を孤立させようと画策したり。いや〜流石クズ!
映画ではよく面と向かって悪意全開で差別発言するシーンがありますが、正直(日本では特に)現実味がないというか…
日本人の身としては、やっぱり陰でコソコソ言うとか、2人になった時だけ嫌がらせするとか、それ系クズの方が現実味があるんですよね。それはそれで嫌だけど。
本作の悪口や陰口は、そういう意味で凄くリアルで良かったです。
ペイトンはソロモンと2人きりの時だけソロモンを見下した発言をし、ソロモンはそんなペイトンを怪しみ監視しつつ、何も言えず。
マーリーンがペイトンの前で「何よ、あの嫌らしい飾りは」と言ってしまい、クレアが「ペイトンがくれた」と返すと慌てて「素敵ね」と言い直したり。細かい会話にもちゃんと人間味があります。
ソロモンは実際凄く良い奴で、序盤こそ空気読めないソロモンに夫妻は苦笑いするけど、子供のエマも懐いてるし、ちょっと変なとこもあるけど良い人じゃないか?と徐々に信頼していきます。ソロモンもそれを感じたのか、ペイトンがクレアの家庭で徐々に信用されていくのに対し、ソロモンはペイトンを最初から二面性のある人間と知っているため、こっそり監視。
そして、ペイトンの本性を遂に見てしまった時、「このうちの人は、僕の友達なんだ…悪さはさせない。絶対」と言い放ちます。いや、このシーン良いね。まじで。プレゼント貰う前だから、余計に良い。
あと、娘のエマが可愛いんだよなー。典型的な良い子。
「何でそんなアポなしで来た気持ち悪い知らん奴に子供任せられんの!?」と疑問でしたが、基本的にクレアの周りが皆良い人なんで、途中から「クレアも夫も優しい人に囲まれて育ったんかな」と何か納得してしまいました。で、ペイトンは天涯孤独なんですよね。この辺、いちいち対照的にしてある様子。
ペイトンは他人の幸せがとにかく妬ましく感じてしまうような人生だったんだなーと見る側にも思わせる設定になってます。
ちなみに『ゆりかごを揺らす手』という題は、「ゆりかごを揺らす手は世界を支配する」という英語の諺からきているそう。子供の世話をする人間はその子供に多大な影響を及ぼし、その子供がやがて大きくなり社会に影響を及ぼすという意味らしいのですが、これをタイトルにしたのはセンス良いなと。
評価もっと高くても良いと思うんだけどなぁ。個人的にはかなり好き。映画的大げさ表現を控え、極力リアルな雰囲気にしてあるのが凄く良かった。
方向性は違うが『マッチポイント』好きな方にはお勧めかも。
>>ボーカル様
訂正ありがとうございます!
テレビで見た後数日経ってからのレビューだったので、記憶が曖昧でした。
ドル換算はもちろん知ってます。
コメントありがとうございましたm(_ _)m
>何千万稼ぐ
>何千万ドル稼ぐ
そんなセリフはありませんでしたよ
4人でレストランに行った時の会話は、「女も大変よね、年に5000ドル稼いで・・・」なので、当時のレートで計算しても100万円~200万円の間ぐらいです
ちなみに「1千万ドル」は現在のレートでも15億円ぐらいですが、「ドル(為替)の計算方法」って知ってますか?