劇場公開日 2000年12月16日

「すばらしい」ヤンヤン 夏の想い出 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0すばらしい

2022年7月7日
iPhoneアプリから投稿

それぞれが自分の世界線を生き、たまに家に集うのが家族。
家族や隣人を「純粋な他者」として描くことで、実に鮮やかに、時代や社会の多様な断面を丁寧に掬い上げる。それは芸術の本質であり、エドワードヤンの真骨頂。
それでいて、何故か監督のエゴは微塵も感じないところが天才。

かつて、父が恋人の前を去ったのは、「自分以外のものに指図される人生はみじめ」だから。
義弟は拝金主義で占い好き、妻は新興宗教に走り、会社の同僚たちは売り上げ至上主義。自分以外の何かに依存している。
無自覚に誰かに指図されること、他者を自分の領域内に止めようすることは、どちらも危険だ。そんな危なげな二面性を鏡やガラスが物語っていた。

そして大田の鮮やかな存在感が画面を彩る。彼は「純粋な他者」と「本当の自分」に敏感な男だ。自由に人生を遊ぶ、もはや神聖な存在。

思春期のティンティンは、外部からの影響をモロに受ける。
誠実で感受性豊かなティンティンは、加害者意識と被害者意識の両方を感じている。
そして、淡い恋に憧れただけなのに不誠実な男のふるまいに深く傷付く。
「本当の自分」が、置き去りにされた子どものように声を上げて泣いていると、祖母が頭を撫でてくれた。
他者の影響に飲み込まれず、静かに自分の中にある悲しみを感じ取ることができた瞬間。

思春期前のヤンヤンは、水と光(カメラ)で遊んでいる。形のないものと一緒くたになりながら、真実の謎を解く名探偵。最初から、目に見えない祖母の魂を完全に理解していた。
気になるあの子と同じプールにザブンと入ったとき、水音がスッと消えた。
余計な雑音が真実をわからなくしているだけで、遊ぶことが大好きな本当の自分に立ち返れば、全てわかっているんだよと言われてるみたいだった。

Raspberry