劇場公開日 2016年7月23日

「アニメへの、命がけの愛の墓標」桃太郎 海の神兵 かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0アニメへの、命がけの愛の墓標

2025年2月11日
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鑑賞方法:映画館

このアニメ作品を知ったのは、藤井青銅『死人にシナチク』。
手塚治虫が、人生が変わったと感じたほど感動した、戦中戦後の日本アニメ最高峰。
見ればフルアニメで、キャラクター描写に稚拙な部分もあるものの、良質な動画を作ろうという気迫が伝わってきます。
完成品を納入したものの、検閲により、最終的に上映されたのは終戦の四ヶ月前。
制作現場はモノがなく、動画用紙に消しゴムをかけ、セルも撮影が終わったら洗って使いまわし、人はどんどん徴兵されてアニメーターが激減、それでも完成にこぎつけたという、地獄の様相だったそう。

桃太郎と動物の家来たちが、鬼ヶ島に投入されて現地人に教育をほどこし、鬼と戦うという戦意高揚ストーリーですが、空気感はあくまでもメルヘン。
ただし戦闘シーンは実際の音声を用いた、やたら迫力に溢れるものです。
実は映像作品の音声って、ほとんどは"造り物"なんですね。
波の音に、小豆をザラザラと鳴らした音が使われるのは有名な例で、黒澤明が剣戟の音を後乗せマシマシして以降、あのガキーン! ズピャ! みたいなSEが、当たり前に使われるようになったとか。
銃の国アメリカですら、近年まで発砲音はどこで造ったのかわからないあの、ズキュウゥゥゥーン! って尾の長い素材が使われてました。
現実の発砲音を映像に取りこんだのは、結構現代になってから。
多分録音機器の性能向上があったのでしょう。
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した『ヒート』(1995)、日本でも同年、押井守の『攻殻機動隊』(1995)がその走りになるのかな?
現実の発砲音って、音波の振れが瞬間的にピークに達してすぐに霧散するので、演出の感覚がズレると迫力ないんですよね。
存在感が出ないというか。
この映画の戦闘シーンは、メルヘンな画面に爆撃機の飛来音や重機関銃の発砲音がズンズン響く、おそろしくギャップのあるものになってます。
子供はこれを見て、戦争って怖いと思うんじゃないかな。
とにかく、制作者のガチな作りこみへのこだわりは、恐ろしいほど感じます。

結局、戦後のゴタゴタでフィルムが紛失、幻の傑作となっていましたが、松竹でネガが発見。
ようやく見られるようになりました。
主人公は将官然とした桃太郎ではなく、故郷の家族を想ってはたらく家来のサルたちだなーと。
どんな形であれ、平和が訪れてほしいというのは、人類最大の願いで祈りなんだろうと、この映画を見て思いました。

かせさん