「単純な自然賛歌、文明批判ではなく、政治闘争劇だったことが驚き。」もののけ姫 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
単純な自然賛歌、文明批判ではなく、政治闘争劇だったことが驚き。
公開から23年も経って、まさか劇場で鑑賞する機会に恵まれるなんて。
冒頭のたたり神の動きからして、時代を感じさせない色彩、躍動感で、スタジオジブリのすごさを改めて実感しました。
未見だったので、周囲の感想からこれまでは自然賛歌と文明批判の物語なのかな、とずっとぼんやりした印象を持っていました。ところが実際の物語は自然対人間と言うよりも、「(獣の姿に仮託した)文明化していない人間」対「文明化した人間」の構図が強く打ち出されていて、「ガリア戦記」をガリア人の側から見たような作品だったんだな、という印象を持ちました。
本作で「自然」を体現する存在はシシガミなのですが、人間や動物といった定命の者の存在を、それほど意に介しているようには思えません。さらに生も死の両方を司っていることから、何らかの超越体(神)と言うよりも、自然の摂理そのものの具現化だと言えそうです。このように「自然」、「文明」、「非文明」の三層が本作の基本構造となっており、ここに「文明」にも「非文明」にも属することができないサンやアシタカが入り込んでいる形となっています。
物語の起点はアシタカの受難と旅立ちですが、彼やサンは、物語の大きなうねりとなる人間対獣の争いの中では驚く程無力で、特にサンは獣からも同族とは見なされず、孤高の存在でしかないことがむしろ心打ちました。結末が典型的な「往きて還りし物語」となっていない点も非常に興味深かったです。
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