赤ひげのレビュー・感想・評価
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人間の悲しさと醜悪と美しさ
「午前10時の映画祭」にて鑑賞。185分という長尺に観に行くか迷っていたのですが、前に観た黒澤明作品の「隠し砦の3悪人」が面白かった事もあり、映画館に足を運んできました。結果良くできた人間ドラマで面白かったです。
相変わらず三船敏郎がカッコいい。医者で弱きを助け、駆け引きも上手く、チンピラをボコボコにできる程強い。いぶし銀なオーラがハンパないです。ちょっとチート過ぎる気もしますが、観る人が憧れる人格者ですね。ボコボコにした後で「これはいかん!」とか言っていた時には近くに座っていたお婆ちゃんが声を立てて笑っていました。ヒューマンドラマの中にも、ちゃんとエンターテイメントを入れているのが黒澤明監督の上手い所ですよね。
んで、加山雄三が認識できないぐらいに若かったです。最初わからなくて声を聞いて「あ、これ加山雄三か!」と初めて気が付きました。若い頃の加山雄三はなかなかイケメンでした。後、山崎努もメチャクチャ若い❗お爺ちゃんのイメージしかない俳優さん達の若い頃って逆に新鮮ですね。
白黒だけあって陰影の使い方が良く考えてありますね。おとよがおかしい時に目の辺りだけ光を当ててたり。そして狂女の顔‼️メッチャ不気味でした。白黒時代の役者さんって目力強烈です。
個人的には前半より後半の方がグッときました。おとよが精神的にやられてた状態から保本の看病を得て、長坊を思いやれる程回復していって、最後に井戸に叫ぶシーンが特に好きでした。おとよと長坊の最期のやり取りとか子供な分切なさ倍増です。
もうレジェンド過ぎて縁遠いと思ってた黒澤明監督作品なのですが、今回「午前10時の映画祭」で2作観てどっちも面白かったので、食わず嫌いは良くないなっと改めて思いました。今後も機会を見付けて黒澤明作品チャレンジしていきたいと思います。
新医師の心情変化と患者達の状況描写と演技力
リバイバル上映があったので、初めて見てみました!
赤ひげ先生、思った通り、有能でがんこで人情味があって、不憫な患者のためには奉行所を軽く脅して患者の生活費を出させて(まきあげて?(笑))
でもそんな自分をちゃんと「卑劣なやつだ」と評し。だけど綺麗事を言っても患者には生活費や診療代、薬代もかかるわけで、医療は無料奉仕してるばかりでは現実的には無理、ということも提示していて良かったです。
夫にさせられた人を刺してしまった、と子ども3人連れてやってきた女性には、「いや、酔った亭主が振り回した包丁を、揉み合ってるうちにたまたま刺さってしまっただけの不可抗力、事故だ。うんそうだ!そうに違いない!知り合いの奉行所役人にそう言ってやる!」と人情裁判官のようにもなったり、
まだ12〜3歳?のおとよちゃんを女郎部屋?から連れ出す時には「わしは腕の2〜3本は折る医者だぞ?」と警告した上で、まだつっかかってきた用心棒達を軽く骨折とかさせて「うむ!これはちょっとやり過ぎた!手加減すべきであった!医者たるもの、人に怪我をさせることはいかん!治療だ!」なんていう強くてお茶目?な場面も(笑)
いや〜用心棒達は全員弱すぎるし、10人以上いたんだから1人ずついかないで数人で赤ひげ先生に襲いにいかないと(笑)まぁ、動きを止めるていどの赤ひげ先生の攻撃だから今ならるろうに剣心の剣心が悪党を誰も死なせはしないで戦闘不能にさせた、に近い爽快な場面でした(笑)
また、新しく来た医師が、本人はちょっと挨拶に立ち寄っただけのつもりがここで働くのだ!と言われ冒頭はめちゃめちゃ拗ねていたのに、
映画の最後には別の場所へ栄転出来ると決まったのに「いや、俺は絶対この養生所を辞めない!まだ赤ひげ先生のもとで働くんだ!」と、すっかりこの養生所も赤ひげ先生のことも好きになり、医師の仕事のなんたるかに目覚めて心情が変わっていったことを腑に落ちさせる脚本、かなり秀逸でした!!!
絶対出るんだこんな職場!と思ってたのに絶対辞めないぞこの職場!と思わせてしまう赤ひげ先生、相当魅力的な人物で圧巻でした(笑)(笑)
それと、悲しかったのは各患者さん達の生い立ちやこれまでの人生。誰にでも優しく仏様のように接してしまうのは、その境地に至る相当な悲しい出来事があり、せめて周りの人の役に立つくらいしか自分には出来ないんだ。。って切なすぎました。
また、おとよちゃんは完全に心を閉ざすに至る壮絶な子ども時代だったため、養生所に来た当初の人を全く信じていない威嚇の眼力、物凄い演技力でした。果たして彼女の精神は本当に戻すことが出来るのか?と思えるほど。だから少しずつ正常な心を取り戻し、逆に誰かを看病してあげられるほど回復してきた時には凄く嬉しかったし、彼女が自分と同じかそれ以上に不幸な境遇の男の子に対し、優しくそして「もうなるべく盗みはしないでね。ごはんはあげるから。」と、逆にカウンセラーを自然に始めた時も驚いたし嬉しかったです。
おとよさんは、同室で看病してくれた先生の医学書も興味を持って読み漁っていたし、不幸な境遇の人の気持ちは誰よりも分かる。ここで優秀な女医か、カウンセリングも出来る優秀な助手になれるだろうな、と思いました。
赤ひげ先生の、「貧困と無知をなんとかしなければならない。これが解決すれば病気のかなりの部分は防げる。」という言葉が重かったです。
あと離れに住んでいた患者の彼女、幼少時代からのトラウマに悩まされ続けて怖い思いをするくらいなら原因となる男の人を殺そう、とまでの境地に達していたことはもちろん悲惨なんですが、彼女の世話を命じられたおすぎさんという若い女中さんも、自分の人生を休憩時間も有給休暇も無くただお嬢様のお世話だけに費やさねばならなくて自分の人生が無い、というのも悲しかったです。もちろん赤ひげ先生は、そうさせた雇い主=患者の父親にこれをはっきりズバッと言っていて、それが救いでした。
とてもとても見応えのある映画で、今回見れて本当に良かったです!
病気は無知と貧困から
黒澤映画の素晴らしさ、まさに今も昔も変わらない。コロナ禍において、特に思う。刀を振るうわけではないが、医者として弱きを助け、強きをくじく。取っ付き難さもあり、他者にも厳しいと思われる面もあるが、それ以上に自分を律しており、何よりも温かい。それぞれのエピソードで人間の業が垣間見え、世の中を風刺しているが、その中でも所々笑ってしまうシーンもあり、バランスが良い。特に岡場所で用心棒をコテンパンになぎ倒した後、医者なのに乱暴してはいけないと言った一言には笑ってしまった。主人公は加山雄三演じる保本だが、赤ひげの人としての大きさに保本同様に自分自身魅了された。椿三十郎の三船の強さも良かったが、赤ひげの強さも良かった。
けっこうよかった
主人公がいじけた男で、最初は見てられなかったのだけど、女郎宿の娘の世話をするあたりからぐっと面白くなる。三船敏郎の素手ゴロが見られた。主人公が結婚する時に、相手の女の子に対してさっぱり好きであると言わないのにうまく事が運んでいた。先日見た『男はつらいよ 寅次郎の旅路』で「死ぬ気で自分の事を好きと言わない相手はダメだ」というような話だったため、果たしてこれでいいのか、という気分になる。それにしても長くて、見終わるまで3日掛かって、最初の方を忘れてしまった。ただ、昔からそれこそ30年くらいずっと見なければいけないと思っていたのでようやく心のしこりが取れた。
黒澤ヒューマニズムの極地!
DVDで鑑賞。
原作(赤ひげ診療譚)は未読です。
弱者への献身と限り無い奉仕の心を持ち、弱き者を見捨てず、他者には常に慈愛の精神を持って接すること。こう云った思想が全編に渡って描き込まれているなと思いました。
赤ひげ先生は貧しい患者に無償で医療を提供し、困っている人がいれば助けずにいられない。人間の鑑と言うべき清い人物像を体現する三船敏郎の名演が心に沁みました。
加山雄三演じる新米医師は、はじめは赤ひげ先生の教えに反発していたものの、様々な事情を抱えた患者たちと接していく中で考え方を改めていき、人間として成長しました。
赤ひげ先生を主人公とするのではなく、新米医師を中心に置くことで、醜いところもある人間と云う生き物の素晴らしさを赤裸々に描き出していく構造にしびれました。
※修正(2023/06/01)
世治し
貧民はタダ、富裕層からは言い値の診察代、患者を入院させるためなら怪我人も出してしまう!赤ひげ先生。
勧善懲悪な世界観で、弱者の味方、正義のヒーローという描き方をされており、医師として診断・治療に苦慮するという場面はあまりありませんでした。現代と比べて検査も治療も選択肢が少ないため、やっていることの趣旨がだいぶ違うのは仕方ないにしても、容易な診断ばかりで違和感が続いてしまいました。いくら当時でも吐かせたい時に仰向けに寝かせておかないだろうとか…医学考証は???でした。
本題は医療というよりも、患者達が辿ってきた不運な生い立ちによる心の病や死に様がクローズアップされていました。彼らが抱えてきた不幸の根源である「貧困と無知」を一向に解決しない社会で、その格差や歪みこそが赤ひげの治療対象のようでした。
脇役まで豪華俳優陣、彼らの渾身の演技が引き出されています。モノクロだからこそ際立つ眼光。一切妥協のない美術。メタボ殿様(^^)。
青ひげだったら随分違う趣旨の話になったなぁ…なんて(^^;)。
個人的には、神妙な表情で傾聴している三船敏郎より、武具を振り回して暴れ回っている三船敏郎が好きです(^_^)。
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