「☆☆☆☆★★ 当時、本人自ら「僕の集大成」と語っていた通り。黒澤ヒ...」赤ひげ 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆☆★★ 当時、本人自ら「僕の集大成」と語っていた通り。黒澤ヒ...
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当時、本人自ら「僕の集大成」と語っていた通り。黒澤ヒューマニズムと、当時の日本映画界の叡智を集約して描かれるダイナミズムな映像美。そしてその娯楽性溢れた全てに称賛を浴びせたくなる完成度。
…とは言え、観た人の全員が諸手を挙げて大絶賛したか、、、と言うとそうではなく。まあ、多少の(どころか、多いなる)やっかみが入り混じりその評価が真っ二つに割れた。
当然【賛】の方が多かったが。それを凌駕する程の強い【否】の声は、作品にとって不幸な出来事だったのだと、今改めて思う。
完成当時、黒澤55歳。製作に2年以上掛けているから、まさに映像作家としては脂が乗り切っている時期だったと思う。
『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』を経ての今作。
有り余る自身の内から湧き上がるパワーは。当時の日本映画界ではせき止める事が叶わない程に膨れ上がり、結果的に(製作費の高騰や撮影日数の超過等)東宝との軋轢を増すだけとなる。
以前から自身のプロダクションを持ち、東宝との立場を対等にするも。それが故に周りから〝 天皇 〟扱いをされ、(芸術家としての拘りから)完全主義に拍車がかかる。
最早、日本映画界に居場所なし…とばかりに。その製作意欲、作品としてのスケールは日本を飛び出しハリウッドへ。
しかし…次から次へと押し寄せるハリウッドでの壁に行く手を阻まれ、遂には(問題が多過ぎるので省略につぐ省略します)自殺未遂。
その後も映画製作は続けたものの。稀代の映像作家である黒澤が、人生に於いて1番製作意欲を持っていた時期。その余りある芸術家としての力量を、遺憾なく発揮する事が叶わなかった事実は、悲しい現実として日本の映画界に重くのしかかる。
…等と、主にネット請け売りの知ったかぶり極まりない蘊蓄を中心に書き込みつつ。この名作に対して、ほんの少しばかりの文句を付けながら簡単な感想を、、、って、前フリが長い割にはちょっとだけかよ!と💦
今回で劇場鑑賞は3回目。
またしてもラストでは号泣してしまった訳ですが、だからと言って《完璧》な作品だとは思っていない。基本的にはエピソードを羅列して行くオムニバス形式だけに。それまで登場していた人物達の〝 その後 〟の中途半端な描かれ方に違和感があり、少しだけの不満はどうしても残る。
それらのエピソードの繋ぎ方であったり、少しずつ若い青年医師の成長に合わせた赤ひげの立ち振る舞いと、(黒澤)ヒューマニズムを追求した脚本から発せられるその説教臭さも加えて。
しかしながら。昨今の映画の長尺さには、ついついうんざりしてしまい。何度も欠伸をしながら観てしまう場合が多いのに。この『赤ひげ』ではあっという間に前半が終わってしまう。
正直に言うと、山崎務のエピソードが少々長くクドい印象は否めないのだけれど。そんな不満を凌駕する(6台の同時撮影と言われていたが)多数のカメラを同時撮影させて演出する、黒澤特有の撮影方法で醸し出される緊張感。
更には《光と影》を巧みに操る照明・美術・衣装・編集等。一流のスタッフが作り出す時代の空気と、それに呼応する役者陣の頑張りに魅力され気が付けばインターミッションへ。
前半の約1時間50分。
休憩を挟んでの後半が約1時間10分。
合わせて3時間と言う時間が一気呵成に駆け抜けて行く。
特に前半のハイライトにあたるアクション場面を経て後半への期待感を一気に高め。後半ではおとよと保本との信頼関係を築く過程に固唾を呑む。
ちょっとだけの重たさに心離れそうになりそうに至るその時に訪れる泣き笑いのクライマックスへ。
その序章は大根で頭カチ割られる大女優杉村春子の素晴らしさ。
保本とおとよ。
おとよと長次。
おとよと4人のお手伝い、おふく・おかち・おとく・おたけ。
保本とまさえ。
全てのエピソードがスンナリと収まって、、、とは言えないところは正直にはある。
前半での香川京子の狂女の話は唐突気味に終わるし、後半の主役の1人のおとよのその後をはっきりと描かれていなかったり…と言った、ほんの少しの不満はどうしても残る。
しかしそんな不満すらも映画は一気に吹き消してしまう。
保本の心にわだかまっていた呪縛を解き放つエピソードが最後に訪れる。
「おまえはバカだ!」
「…!?💡…お許しが出たのですね!」
この短い台詞で、師弟の信頼関係を表現し。観客に大いなる多幸感を与えるラスト。
その結果、全ての不満点は一気に解消させられてしまい。この見事な結末の締め方で、観客の心を鷲掴みにしてしまうのだ。
「これで良い。これで良い。」
1984年 11月17日 ニュー東宝シネマ1
2018年1月29日 TOHOシネマズ/日劇2
2021年10月13日 TOHOシネマズ錦糸町オリナス/スクリーン6