劇場公開日 1993年4月17日

「黒澤監督にしか撮れない群衆シーン! これこそ黒澤明です」まあだだよ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0黒澤監督にしか撮れない群衆シーン! これこそ黒澤明です

2020年3月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

お別れのごあいさつ
生前葬というべきかもしれません
ありがとうとの黒澤監督からの最後のごあいさつなのです

エンドロールの茜色と黄金色の残照の空
次第に藍色が加わって暗くなっていきます
まるで葬儀会場の背景のような色彩です

その前の夢のシーン
夕焼け空の下、子供達がかくれんぼをして遊んでいます
本来、かくれんぼは夕暮れ時にはしてはいけないものです
神隠しや人さらいにあうかも知れないから

もういいかいと呼ぶはずなのに
遠くの丘の稜線にいる子供達はまーだかいと呼びます

それは何故?
かくれんぼじゃないからです
彼岸からの催促の声だからです

干し藁をかぶってもういいよと言いかけて
少年は夕焼けの美しさに見とれ、隠れるのを止めます

もうこれでもう思い残すこともない
しかし、そのはずだったのに夕映えの残照の美しさに、もう少しだけ時間を貰えるなら、空が暗くなる前にもうひと遊びしてみたい

そのようなメッセージと受け取りました
黒澤監督、お疲れ様でした

物語は戦争中から始まり、戦後すぐから大勢の教え子に支えられて77歳の喜寿の宴席の夜まで続きます
もちろん戦時中に監督昇格し、戦後の混乱の中から監督を続けてきた自己の半生をなぞったものです
ノラは映画作りへの情熱の暗喩かと思います
そして奥様への感謝のメッセージも強く打ち出されています

大宴会のシーンは監督からの今までの映画監督人生に関わった総ての人々への監督の催した御礼の大宴会なのです

あの大宴会のシーン
七人の侍や影武者や乱にも負けない、一大スペクタクルシーンです
あの大人数の宴席にいる総ての俳優が芝居をしています
監督がそれぞれの芝居の総てを把握して、神経を行き届かせて指導したものです
全員の動き、演技に監督が目を配らせてあるのです
ものすごいシーンです
黒澤監督にしか撮れない群衆シーンなのです!

これこそ黒澤明です

あき240