「追い求めた「真実」の価値とは?」ポーラX Chemyさんの映画レビュー(感想・評価)
追い求めた「真実」の価値とは?
寡作のカラックス監督が8年ぶりに手掛けた本作。テーマは「未成熟」だそうだが、正確には「未成熟者は真実にたどり着けない」であろうか。外交官の息子であるピエールは、美しき母と「城」に住み、天使のような婚約者もいて幸福な生活を送っている。そこに突如現れる「影」。母違いの姉を名のる黒髪のイザベルの登場で、ピエールはそれまでの裕福な生活を捨て、イザベルと生きることを決意する。それまでの明るい陽光の爽やかな映像から一転、画面は暗雲垂れ込める暗い映像に変わる。薄暗い部屋での衝撃のSEXシーンはリアルでありながら神秘的で、近親相姦を淫靡としてではなく、むしろ神話めかした美しいラブシーンだった。しかし「未熟さ」が魅力といわれている主人公が、愛も自分が書く小説も「真実」を求めて、不幸へ突き進む姿が痛々しかった。神々に愛されそうに美しいピエールが、イザベルと暮らし始めてから、目は落ち窪み、見た目も精神もボロボロになっていくのが観ていてとても辛い。そうまでして追い求めた真実が「模倣」とは・・・!カラックス作品の特徴である疾走感が作品全体を不穏たらしめ、息苦しいほどだ。真実を追い求めた青年が最後に手に入れたものは何だろう?母、友人、裕福な生活、未来、愛、そして姉・・・、失ったものは計り知れない。目の前の「真実」は彼にとって単なる「目くらまし」にしかすぎず、その虚構を信じて突き進む未成熟さ。独りよがりに「真実」を主張するイザベルもまた、真実の呪縛にがんじがらめになり、ピエールともども絶望の淵へ墜ちてゆく。真実は人から優しさを奪う。時には愛する人のため、優しい嘘も狡猾な嘘も必要だ。それが人生の「事実」。「真実」とは違う「事実」を知って、人は徐々に大人になって行く(成熟して行く)。青いまま堕ちてしまったピエールを、婚約者であるリュシーだけがただ待ち続けるだろう、時と共にゆっくり熟しながら・・・。