劇場公開日 1995年5月27日

「普通を放棄すればとんでもないことが起きる」プレタポルテ あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0普通を放棄すればとんでもないことが起きる

2009年7月25日
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

笑える

怖い

知的

昔、ホテルマンだった時代にゲイのジュエリー・デザイナーがホテルのお得意様でいました。年に3回くらいファッションショーをホテルで開き、ゲストは皇室や芸能界から来ていて、さらにモデルさんは外国からと、それはまあ異常な世界でした。

本作は実際のパリコレに合わせ、カメラを入れて撮られたフィクションです。俳優陣はどれも見たことがあるか知っているそうそうたる顔ぶれで、舞台裏の人間模様は、わたくしがホテル時代に見たそれを何十倍にも凌ぐほどドロドロしています。モデルに対するデザイナーの扱いなんて人間扱いじゃありません。

本作の監督、故ロバート・アルトマンさんはそんな世界の群像劇をドライかつシニカルに描いているのですが、そこで描かれている空気や人はまさしくわたくしが見てきた世界そのものでした。なにか巨大な欲望が隠れてニタニタと笑っているような世界なのです。並の神経じゃ到底生きていけるような世界じゃありません。

本作を観ていて、個人的ににんまりしてしまったのが、この作品にはどこかフェリーニの「甘い生活」へのオマージュがある所でした。耽美的な世界ほど、欲望と生と死が似合う世界はないのでしょう。そんな世界では人が笑っていても、どこか泣いているみたいです。

でも、こんな世界に一生を捧げてみるのも悪い生き方じゃないかな、なんて思ってみたりもしました。

あんゆ~る