「何とも不思議な映画だった」プレイタイム ホーリーさんの映画レビュー(感想・評価)
何とも不思議な映画だった
冒頭の空港のシーンでは様々な人物をふらふらと追っているようで、何となく捉えどころがない。
モヤモヤとした気持ちで観続けていると、なるほどこの映画の主人公は「タチ・ヴィル」そのものなのだと得心する。
洗練されたビルや街並みの中で一際浮いて見える垢抜けないユロ伯父さんと、バーバラをはじめとするアメリカ人観光客の団体。
この映画は街のあらゆる場所が舞台となっているけど、主な場面は前半のオフィスと後半のレストランの2つに分けられると思う。
オフィスのシーンでは仕事の面接?のアポイントメントのためにユロがやってくるが、担当者は忙しなく動き回っていてなかなか取り合ってもらえない。
ユロは担当者を追いかけるが、オフィス見学に来た日本人の団体に巻き込まれたり、迷路のようなオフィスに迷ったりで度々見失ってしまう。
担当者もやっと手が空いたと思っても、ユロはいなくなってしまっている。
そんな可笑しなすれ違いを繰り返し、結局会えず終いでユロは街へと吐き出されてしまう。
このシーンまでで、「タチ・ヴィル」という都市の性質があらかた見て取れる。
モダンで洗練されていてカッコイイけど、決して合理的ではないのだ。
見た目重視で機能性は置いてきぼりになっている。
やたらといっぱいあってどれを押したらいいのだか分からないボタン、待合室の中の椅子とカタログが置いてあるテーブルの微妙な距離、複雑に入り組んだ迷路のような構造など。
それらに翻弄されるユロはじめ人々の姿がシニカルな笑いを誘う。
そして、レストランのシーン。
映画はそれまでユロとバーバラそれぞれの行動を追い、彼らは行く先々でニアミスないし鉢合わせをしているのだが、この終盤のシーンでやっと知り合うことになる。
この映画は何においてもこのレストランのシーンが素晴らしかった。
まるでサーカスのような華やかさで繰り広げられる人間模様や小ネタの波状攻撃。
「収集がつかなくて何だかワケが分かんないけど、超楽しい!」といったような熱気と混沌を見事に映像化している。
細部と全体の切り返しが巧みで空気感が画面から溢れていた。
このレストランでも前述の見た目重視は炸裂。
オープン初日を迎えたボールルーム付きの高級レストランだが、客が入る直前まで内装工事が終わらず、いざ営業してみれば案の定不具合・不手際が続出。
そして予想以上の客入りで食材がなくなるわと悲惨な状態に。
でも生演奏の音楽にノった客は、天井が落ちてこようと照明がショートしようとお構いなしに踊り狂う。
エントランスのガラスの扉をユロが粉々にしてしまうと、ドアマンはドアノブを持ち、パントマイムで扉を開閉する。
これは本当に楽しかった。
寝不足でそれまで寝そうだった(…)けど目が冴えた。