「鉛のような映画」フルメタル・ジャケット naokiさんの映画レビュー(感想・評価)
鉛のような映画
わたくし、この映画は全くの初見でオリーバー・ストーン監督「プラトーン」は公開当時観に行ったのに
「フルメタル・ジャケット」は行かずじまいで、
それから30年以上経ってようやく劇場で観る事ができました。その間、TVやソフト(VHS、LD、DVD)、
配信などで観る事はありませんでした。
スタンリー・キューブリック御大の作品は、
できるだけ劇場で観たいという思いがつのり、
観るまで、えらい時間かかったなぁという感じです。「2001年宇宙の旅」や「時計じかけのオレンジ」は劇場では、"あぁ、またか“というぐらい繰り返し上映されるのに「フルメタ」に関しては、あまり上映される機会がないように思われます。
この作品で象徴されるのは鬼教官によるシゴキ・・・
下半身ネタを連呼しながら行進する海兵隊新兵。
公開当時ゲームソフトのCMでパロディにされてたのを思い出します。
CNNは、この映画を酷評しておりました。
「キューブリックが戦争映画に他の監督と同じように
ロック音楽を使用して凡庸な作品になりさがってますね」
まぁCNNは保守ですから体制批判が根底にある映画は嫌いなんでしょうね。
前半は丹念にストーリーが進み物語に見入っていました。途中キューブリック作品である事さえ忘れてしまいました。
皆の鬱憤がデブでノロマなパイルに向かうシーンは痛々しいなぁ。メル・ギブソン監督「ハクソーリッジ」にも似たようなシーンがあったなぁ。
中盤、えっこうなっちゃうの⁉️
ヒッチコック「サイコ」のような展開に面食い、この後どうなっちゃうのよ❗️
そして後半は激戦地のベトナムが・・・なぜかポン引きの場面から始まる下世話な会話。
実は私このシーン(2回目のサングラス娼婦のやりとり)だけTVで見ており、あれっ違う映画かな?それがフルメタの一場面とは信じられずスチール写真でお見かけする鬼教官のシゴキやトイレで微笑む(?)パイル、負傷兵を抱き抱える兵士達🪖、機関銃を構える少女兵と何か一致しないんですね。
コッポラ監督「地獄の黙示録 特別完全版」での兵士とプレイメイトのやりとりのような美しいシーンでも無いし(ファイナルカットでは結局カットされました)ポン引きシーンは2回も挿入され、それが後半に絡んでくる事もなく何か意味が隠されてそうです。
最後のジョーカーのアップシーンがキューブリックらしい画になっており窓に反射する光が美しいんですが最も悲しいシーンでした。彼の葛藤と銃声が、こだまする何とも言い表わせない無念の気持ちが込み上げました。
兵士たちのミッキーマウスの唄で終わりローリング・ストーンズ「黒く塗れ」でエンドロールを迎えます。今までこの曲(ストーンズ)聴く機会がなかったのですがマジいい曲です。
見終わった後、ズシーンと鉛のようなものが心に残りました。長年キューブリックと組んでおられた撮影監督ジョン・オルコットが亡くなられたため、この作品に携わることができませんでしたが、この作品の撮影監督ダグラス・ミルサムもいい仕事をされております。キューブリック作品の中でも「フルメタ」は比較的、分かりやすい作品です。映像作家というより人間として何かを訴えかけられてる作品でした。