「取り繕うことの限界と残った家族」普通の人々 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
取り繕うことの限界と残った家族
総合60点 ( ストーリー:60点|キャスト:70点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:75点 )
良い職業を得て郊外に一軒家を持ちそこに家族と共に幸せに暮らす。ほんの数十年前までは失業と貧困に怯えながらその日暮らしをしていた多くの市民からすると、そのような生活が一般的に思い描く当時の普通の幸せの姿だろうか。
だが社会が発展し安定してくると、人々は物質的豊かさから心の豊かさへと次の段階に目を向ける。一見幸せに過ごせる条件が揃っているようでも、その内実は問題を抱えている家庭が多い。そんな時代背景もこの映画の製作にはあったのではないだろうか。
物質的には満たされていても、大きな事件の後の心の隙間を埋められない家族の心の間の齟齬が表面化していき、努力をしてみたり感情のままに暴走してみたところで取り繕うことも出来なくなる。家族の一員として無理して家族のために生きるよりも、家族と離れ一人の人として自分の心に正直に自分らしく生きることを選んだ母親が、自分はとても好きにはなれないけれどもそれほど悪人だとも思えない。家族という義務感を負って見た目を取り繕う家族ごっこは終わって、でも人として家族の在り方を何もないところから見直せる父子には家族としての愛情が残っている。そんな家族の崩壊ともがきとやり直しが観られる。
だけどこの作品が面白かったかというと、そうでもない。みんなの苦しめられている姿がひたすら続くし、そうなればもうこの家族は駄目なんじゃないのって思っていたし、その様子を見せられ続けてそれでどうしたのという感じ。
この時代には外から見た家族ではなく家族の内面を見つめるという意義があったのかもしれないが、現在では当たり前すぎる。アメリカでは二組に一組が離婚するのは、家族ということに縛られすぎないで個人の生き方を求める時代になってきたということ。その過渡期の時代の作品なのかもしれない。