「大傑作 それしか言葉が浮かばない。」羊たちの沈黙 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
大傑作 それしか言葉が浮かばない。
静かに持続する緊張感。
憧れのクロフォード主任捜査官に呼び出され、認めてもらえるチャンスに対する期待。
目に飛び込む猟奇殺人のビジュアル記録。
とんでもない任務…。
映画が作られたころの、男社会の女性の位置もさらりと、強調して見せ、
これからどうなると、物語に引き込まれていく。
そして、想像を軽くはずす。
”恐ろしい”殺人者の、洗練された物腰・しなやかさ・間のとり方。あれ?と思わせておいて、いつの間にか虜になってしまう狂気。
知的で、優しげな笑顔、物言い、ふるまい。それなのに、にじみ出てくる狂気、下卑た表情もちらつかせる。しかも、言葉だけで隣の囚人を自死に追い込むことができる、その危うさ。その様に距離をとろうとするが、こちらの手の内はとっくに読んでいて、小出しにしてくる餌。その餌をつまもうとすると、さっと引き上げられてしまう。なのに、心の奥底に忍び寄ってくる様。
間合いをとる難しさ。レクター博士に振り回される。続く緊張感。
犯人を追いつめる緊張。
プロファイリング。わずかな情報を聞くだけで、次々に犯人の実像に迫っていく、その面白さ。知的好奇心を掻き立てられ、途切れぬ緊張感。
タイムリミット。
クラリスが訓練中に失敗するのをあえて見せておくことで、後半の追跡劇の緊張が高まる。
”蛾”が引き出す不気味さと緊張感。
クラリス訓練生と、レクター博士の関係性がどうなっていくのかという緊張感。
クロフォード主任捜査官とクラリス訓練生の関係がベースになっていて。明確ではない、まったく違う次元の関係性に見えるのに、ひそかな三角関係。
そして、レクター博士がこれから何をするのかという緊張感。
レクター博士の造形も見事。
ただの凶悪犯ではない。
”羊=助けを求めるもの”を助けようとあがく者への対応と、己の欲望だけを満たそうとする者への対応の違い。ちょっと気持ちがいい。
それでいて、クラリスを貶めた隣の囚人への仕打ち。己だけの正義感?美意識?諫めてくれるのは嬉しいが、その常人には真似のできないやり方に戦慄が走る。
そして、使えるものは何でも使い、己の要望は満たす。
どこを信じて、どこを頼ってよいのか、どこからは…。
これだけ様々な緊張感が入り乱れているのに、不協和音とならずに、お互いのエピソードがお互いの緊張感をさらに高める作り。
レクター博士とクラリスの、ある種禅問答のような会話。さらっと聞き流してしまいそうでいて、ちょっと立ち止まると、深淵にはまり込む。
なんてすごい映画なんだ。
演出・脚本も究極なのだが、
ホプキンス氏の演技があってこそ。
最高の人たらし。
相手を利用しようしている眼。知的好奇心にワクワクして目が輝いている眼。相手の正直さを喜ぶ眼。罠が仕掛けられていることがわかっていてもなお、惹きつけられ、近づきたくなる。
ホプキンス氏も決して大柄ではない。今のお姿よりも、スマートで、小顔。それが、大柄な男たちを従え、翻弄していく。
そんなふうに演じられたホプキンス氏。
それに対して、物静かなクロフォード主任捜査官。どちらかと言えば、人を避けようとするタイプ。
この二人の対比も面白い。
後世へも影響を与え、
レクターもどきがたくさん生まれることになったのも納得。
そこに、その二人に翻弄されつつ、示された手掛かりを使って自分なりに自分の答えを見つけ出そうとあがくクラリス。ひよっこ度が初々しく、応援したくなる。
努力家で、精いっぱい背伸びして、それでいて隙だらけ。それなのに、レクターについていけるだけの知的なひらめきを見せ、人を救うための実行力も兼ね備える。
フォスターさんならでは。
レクターだけがとびぬけてしまいかねない設定でありながら、クラリスを配すことで物語に収まってくる。だのに、たんにクラリスのお守、バディには収まらない。
この先何が起こるのだろう、目の前の獲物の先のことを示唆するラストも秀逸。
次々に物語を欲したくなる。この二人を永遠に見ていたくなる。
(原作未読)
ホプキンス、素晴らしいです。この映画に出会ったのがかなり遅かったんです。このサイトで強く勧めてくれた方が居てそれで見て本当に感動というか、こういう映画があったんだ!と思いました。知らなかった自分はなんて馬鹿だったんだと思いました。映画を見る時期、見ない・見ることできない時期がありました。でも皆さんからのアドバイスやお勧めなどで今は映画を見るのが楽しく欠かせないイベントです