「悲しみの終わらない国」悲情城市 sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
悲しみの終わらない国
一度観ただけでは登場人物の相関図を把握するのに時間がかかってしまい、理解しきれない部分はあったものの、最後まで作品のスケールの壮大さに圧倒された。
1945年、ラジオから日本の敗戦が伝えられる中で、ひとつの命が生まれるというかなり印象的なシーンから映画は始まる。
日本の敗戦は、すなわち台湾の日本統治が終わることでもある。
敗戦後の日本はその後高度経済成長を迎え、今に至るまで大きな戦争に巻き込まれることもなかったが、台湾が戦後に歩んだ歴史はかなり過酷だ。
中国では国境内線が始まり、やがて日本に代わり台湾に流れ込んできた中国人たちは台湾の人々に対して弾圧を行うようになる。
この作品でも二・二八事件という闇タバコが引き金になった、中国人による台湾人の虐殺の模様が描かれている。
とにかくこの映画に登場する台湾人は理不尽な暴力にさらされる。
林家の三男である文良は戦争によって精神錯乱状態になり帰国する。
病は治ったものの文良は阿片に手を出すなど問題的な行動も多く、長男の文雄は彼を叱責する。ヤクザ同士の抗争は一応解決はするのだが、彼は売国奴と密告されたことから憲兵に逮捕され、激しい拷問を受ける。文良は釈放されるのだが、拷問によって再び精神に障害を負ってしまう。
四男の文清は耳が聞こえないのにも関わらず、同じく売国奴の疑いをかけられ逮捕されてしまう。
彼の親友である寛榮も足を折られ、やがて中国の軍隊によって追い詰められていくのだが、何を根拠に彼らが危険分子として追われることになるのかが全く分からなかった。
実際にも潔白であるのにも関わらず不当に逮捕された台湾人はかなりいたのだろう。
両親や妹の寛美に二度と会うことが出来ないことを覚悟の上で、祖国のために寛榮がゲリラとして山奥に潜伏する道を選んだのはとても悲しいことだと思った。
長男の文雄は上海マフィアとの抗争に思わず手を出してしまったために命を落とす。
個人的には耳の聞こえない文清が、だからなのか、一番台湾の人々の思いを代弁しているようにも感じ、この映画の中では一番の重要なキャラクターであるとも思った。
ずっと文清と寛美はいつかは夫婦になるのだろうなと予感はしていたのだが、なかなか文清の方が一歩を踏み出すことが出来ない。
そんな文清に耳が聞こえないことを承知で、寛美の気持ちに応えてあげろと文雄が発破をかけるシーンがかなり印象的だった。
そして文雄の死語、二人は結婚式を挙げる。
このシーンはかなり感動的に演出してもいいように思ったが、最後までこの映画はどこか俯瞰したところから淡々と物事を映し出している。
人が亡くなることも、人が生まれることも、同じようにこの映画はありのままの事実として描いている。
だからこれは観ていて感動の涙を流すというタイプの作品では全くない。
ありのままに残酷な現実を見せつけられるからこそ、心に強く響くものはあるのだが。
文清が寛美と生まれたばかりの子供と、セルフタイマーで記念写真を撮るシーンは印象的だ。
その後に文清は再び逮捕されて行方不明になってしまう。
最後は文良や父親の阿祿ら家族が食卓を囲むシーンで終わるのだが、どれだけ過酷な運命を描いた映画でも、食事のシーンで終わる作品はどこか救いを感じさせるものだといつも思う。