「愛でも希望でも埋められない溝」愛と希望の街 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
愛でも希望でも埋められない溝
1時間ほどの短くまとまった中編だが、質はかなり高い。言ってしまえばよくある山の手文化と下町文化のメロドラマ的交通事故なのだが、モチーフの運用が巧い。特にベランダから鳩を撃ち抜くラストシーンは白眉の出来だ。山の手の裕福な邸宅のベランダから投げかけられる兄と妹の視線の先には灰色の煙を吐き出す北千住の工場群が立ち並ぶ。そこにはかつて妹の愛したあの貧乏な青年が暮らしている。しかしその二つの世界の中間で、妹と青年の間を繋ぐ絆しであった鳩は、あるいは平和と平等の象徴であった鳩は撃ち抜かれ、地に墜ちていく。鮮烈すぎる破綻。そこには一切の再生の兆しもない。
しかしまあこの悲愴きわまる映画のタイトルが『愛と希望の街』というのは何とも皮肉というか、もはや山野一的な露悪性すら感じるのだが、どうやらこれは大島ではなく松竹の意向だったらしい。処女作の頃からして既に松竹と大島の間には決別の予兆が潜んでいたということなのかもしれない。
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