劇場公開日 2002年

「この映画は「枯れ葉」の前編だ」パラダイスの夕暮れ 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5この映画は「枯れ葉」の前編だ

2024年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画を観終わったあと、カタルシスを得た。「救い」と言い直してもよいだろう。世界中の多くの人々が、なぜアキ・カウリスマキの映画を観るのかわかるような気がした。
登場人物の二人は、出てくる音楽や、ジュークボックスでわかるように、60年代風。しかし、SONYの最新のビデオ機器などが出てきて、80年代の中頃を背景にしていると知れる。この映画の二人が人を代えて、2020年代に浮遊したのが、「枯れ葉」ではないか。
主人公の二人、ごみ収集が仕事のニカンデル(マッティ・ペロンパー)とスーパーのレジ係イロナ(カティ・オウティネン)は、そのまま「枯れ葉」の二人、飲んだくれの金属工ホラッパ(ユッシ・バタネン)と、スーパーのレジ係をクビになるアンサ(アルマ・ポウスティ)に引き継がれる。この映画に出てきた音楽の中で、一番気になったのは「ともしび」か。ロシアの曲なのに、まるで日本の歌謡曲のようだった。
少し驚いたのは、ニカンデルの妹が精神を病んでいたこと。ニカンデルが、イロナとせっかくデートに漕ぎ着けても、用意した食事は食べてもらえずビンゴに行ったり、せっかく二人になっても話すことが何もなかったりしたことと、共通するのかも知れないと思った。ただ彼は、正式のレストランには足元を見られて入れてもらえず、バーガーを食べた時も、二人でいるだけで満足そうだった。それに比べ、イロナは奔放。
なぜ、この映画を観て、私たちは救われた気持ちになるのだろう。ニカンデルの最後の誘いに、イロナが応じたからに尽きる。ニカンデルは、心の中の思いと外に出る言葉の間に、また自分と相手との間に、とてつもない距離があるから、彼の心からの思いが相手に伝わった時の喜びは、想像に絶するものがある。たとえ、結果としてうまく行かなかったとしても。ただ、ニカンデルを演ずる俳優は、とても酒が強そうには見えなかったことが気になった。

詠み人知らず