劇場公開日 2025年1月31日

「自由とは今の状態から出ること」パピヨン(1973) talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0自由とは今の状態から出ること

2025年2月2日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

知的

よーく知ってます、この映画!と思って見たら実は全然知らなかった!完全に忘れていたか、実は見ていなかったか、見ても何にもわかってなかったか。だから映画館で今回見ることができて嬉しかった。

エンドロールに脚本はトランボと見てすごいショックと喜びを覚えた。独房でドガからのヤシの実の差し入れが見つかり誰からか言えと看守に言われても絶対に言わなかったパピヨン。そこにトランボを感じた。ドガはドガで僕だったら名前、言っちゃうなあなんて言ってることに複雑な気持ちになった。普通の人間はドガのように考えるんだろう。それは最後の場面もそうだ。白髪で歯は銀歯で顔も皺だらけ、もはや決して若くも頑丈でもない体躯なのに、海を見つめて七度目の波に崖から飛び込みヤシの実を詰めたバッグに体を載せて「俺は自由だ!」とパピヨンは叫ぶ。「僕は行かないよ」というドガの気持ちをパピはわかってる。飛び込むパピを首を傾けて眺めるドガは私達なんだろうか。

印象的なシーンをいくつか挙げると、怖くて真剣なんだろうけれどワニや蝶を採る二人の姿は笑えた。途中で挟まれる、パピヨンの夢のような妄想のようなシーンが不気味で比喩的で頭から離れない。パピヨンが「人生を無駄にしたことがお前の罪だ」と告げられるシーンだ。髭を剃られたり髪をカットしてもらうために、独房の扉の四角い穴から頭部だけ突き出す。隣の囚人と目が合ったパピヨンは彼に尋ねられる、「俺はどう見える?元気に見えるか?」どうみても元気に見えない。パピヨンは「元気に見えるよ」と答えるがその彼はまもなく死ぬ。同じ質問をパピヨンもすることになる。その時のパピヨンの顔はもうダメだと観客に思わせるような状態だ。私達は鏡がないと自分がどういう状態なのかわからない。そして、鏡でなくて眼鏡だけれどドガの眼鏡が効果的なシーン。ドガ全部を映さずにレンズの反射が時折木々の陰の中で光る。それで、あ、ドガが居る、パピヨンの様子を心配して見ている、とわかる。

原住民が海辺で穏和に幸せに暮らしていてパピヨンも受け入れてもらっていたのにその村落があっという間になくなった。そこでもらった真珠でどうにか修道院が受け入れてくれたのに強欲な修道院長の密告でまたパピヨンは捕まってしまう。キリスト教の欺瞞と欲に怒りを覚えた。

ダスティン・ホフマンは本当に演技が上手い。マックイーンはアクション・スターの印象が強かったけれど素晴らしかった。マックイーンを見つつベルモンドを何度も思い出した。二人ともアクションもできる素晴らしい役者だ。とりわけベルモンドの「プロフェッショナル」の前半部分に共通するシーンがこの「パピヨン」にも多くあった。

音楽の使い方がとても素晴らしかった。全くの無音、音楽なしのシーンもあるので音楽がとても引き立つ。みんなが知っているあの有名な「パピヨン」のメロディーは決して過剰に流されない。その禁欲がパピヨンの自由の希求と諦めない思いの強さを表しているようだった。

talisman
あんちゃんさんのコメント
2025年2月2日

抑制の効いた音楽、抑制の効いた演出、抑制の効いた演技。いい時代の実に品のある映画でした。

あんちゃん