劇場公開日 1985年8月30日

「夢想と現実、どっちも使って生きろ!」バーディ Garuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0夢想と現実、どっちも使って生きろ!

2022年1月31日
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鑑賞方法:VOD

 現実離れした世界に心を遊ばせることで精神のバランスを保ち、現実と折り合いをつけながら生きている人間は、決して珍しくない。 というか、いつでも逃げ込める自分の世界を持つことは、誰にとっても必要だし自然なことだ。 それが行き過ぎて変人や病人のレッテルを貼られるかどうかは、微妙な程度の差であろう。

 冒頭のシーンは、鳥を偏愛する青年バーディが、戦争で受けた精神的ショックにより、病的なほど深く幻想の世界へ入り込んでしまった姿を映す。 独房のような薄暗い病室の中、弱った鳥のように身体を畳んでうずくまり、じっと窓を見つめるバーディ。 傍から見れば、精神が崩壊してしまった廃人だが、その若い肉体は確実に生きている。 そこには、現実から逃避し、幻想の世界の中ででも生きようとする、人間の必死の生命力が息づいているのだ。

 終盤にも、裸でベッドの端に鳥のようにとまり、窓を見上げるシーンがあるが、幻想と現実を均衡させて生きる人間の姿を見事に捉えた、非常に印象的な画である。 アラン・パーカー監督がこの作品に込めた真意は、すべてこのシーンの映像に凝縮されているのではないかとさえ思う。

 作品として見事な点は、幻想と回想を交互に混じり合わせながら、どんでん返し的なクライマックスへと強力に惹き込んでいくプロセスの創り方だ。

 バーディを正気に戻すために病院へ赴いたのは、やはり従軍で心と顔に深い傷を負った親友のアル。 自分の心の回復のためにも、必死で親友を現実へ呼び戻そうとする。 しかし、二人の楽しい思い出をいくら回想して聞かせても、バーディの心は閉じたまま。 ついに絶望しそうになったアルだったが、最後の最後に、夢想の世界から戻ったバーディが希望の光を見せる。

 あっけらかんとしたあっけないラストは、衝撃的でもあり、ちょっと笑わされてしまった。 人生、出会いが大切だが、この作品の二人は、最高の相性、最高の出会いということではないだろうか。
 この結末の続きには、まあまあ明るい未来を想像するのである。

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Garu