「風化への警鐘」八月の狂詩曲(ラプソディー) odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
風化への警鐘
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庶民の視点で描いた原爆、反戦映画としては「この世界の片隅に」を観た時ほどの魂を揺さぶられた何かが足りない気がする・・。世界の黒澤監督作品として、この凡庸さは何かと戸惑いながら鑑賞、答えが見つからないのであれこれ邪推してしまった。
有力な軍人だった父のお蔭か兵役免除、戦地にもいかず原爆投下当時35歳の新進監督、国威高揚映画を撮っていた黒澤明にしてみれば戦争と向き合う映画は辛かったのだろうか、80歳の晩年になって心境が変わり、戦中を生きたものの使命感として後世に非劇を伝えなければと思ったのだろうか。
ただ、祖母が語るピカドンや校庭に残る熱でひしゃげたモニュメントを通じてでは所詮、間接話法、当事者としての疑似体験の坩堝「この世界の片隅に」ほどの胸苦しさには程遠い。
リチャード・ギアまで仕込んで「罪を憎んで人を憎まず」と儒学的な原爆投下への解釈、世界観も間違っているわけではないが醒めている感が拭えない。反戦映画ではあるが小津の「東京物語」のような世代間ギャップに時に寄せて見せるのでテーマの解釈に戸惑ったのだが、痴呆の始まった祖母の奇行と追う孫たちのラストショットが戦争体験の風化、終焉を暗示しているようで警鐘としては圧巻だった。
脱線ですが劇中に小学校の教師だった祖父のオルガンが出てきます、長崎出身で一昨年逝かれたシャンソン歌手の古賀力さんが訳詩して唄われていた「先生のオルガン」が思い出されました。
まさに原爆で亡くなった先生のオルガンを懐かしむ教え子たちのレクイエムだったのです。
シューベルトの「野ばら」が主題の様ですが、知る人ぞ知る市井の名曲を黒澤さんには使って欲しかったと勝手に口惜しんでいます。
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