劇場公開日 1956年10月12日

「船長室でブツブツ呪いの言葉を垂れるG.ペックが凄まじく、思い切って...」白鯨 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0船長室でブツブツ呪いの言葉を垂れるG.ペックが凄まじく、思い切って...

2024年1月31日
PCから投稿

船長室でブツブツ呪いの言葉を垂れるG.ペックが凄まじく、思い切ってDVDを買ってしまった。
3分近く瞬きせず、濁った白目とおぞましい黒目で宙を睨む怪演。
彼がなんでこの映画を気に入っていないのかわからない(+_+)。

【正しさへの執着が人を壊す】
負けた。
私は正しいのに、あいつが間違っているのに・・・押し切られた。
悔しい。

そんな不安定な精神でぐるぐる考え抜いた末、相手を血祭りにあげて己の平穏を取り戻そうとしたエイハブ船長の憎悪が痛々しい。
もともと敬虔なキリスト教徒で、船員にもやさしく接していたエイハブ。
彼の穏やかな人格は、実は「人間こそ最も優れた存在」という価値観の上に組み上げられたものだったが、狩るはずの下等動物=鯨に、逆に狩られるという敗北体験を経て、滅茶滅茶に崩壊してしまう。
それでも自分の価値基準に固執し、修復して身を立て直そうとした結果、我武者羅にたった一匹の鯨を追い求める狂人に変貌してしまった。

クライマックスで、白鯨へのありったけの憎悪を絶叫しながら、何度も何度も何度も何度も銛を突き立てるエイハブの、みじめで哀れな様。
自分の正常を取り戻そうとして狂った人間の、悲しい嗚咽が聞こえる。
そして、そんなエイハブを馬鹿にしたり危険視したりしていた船員たちが、次第に彼に巻き取られていく経緯にも寒気がする。

ストレートな復讐劇でありながら作り物感ゼロ。
俳優たちの真に迫る演技が光る傑作。

雨丘もびり