「この作品以上の映画はできないと思える、笑えて背筋が凍る、最上級の風刺劇!!」博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
この作品以上の映画はできないと思える、笑えて背筋が凍る、最上級の風刺劇!!
人間の狂気、愚かさと機械化の危うさをこんな風にあぶりだすとは!
ん、でも今の国会・議員動静をみていると「風刺?現状?」と迷ってしまう。
こういう人々に私達の運命・未来を握られているのかと思うと、心の底からぞっとする。
でも選挙で当選させてしまっているのは私達なのだけれど(@_@;)。
冷戦時代を皮肉ったブラックコメディ。でも”冷戦時代”の話と言い切れるのか?
間違って発令された原爆投下指令。事態を阻止しようとする人々。
と書くと、多くのSF・スパイ映画で繰り返し取り上げられたストーリーなんだけど…。
この映画ほど、笑えてかつ不気味な映画はあるだろうか?
セラーズ氏やスコット氏の怪演に圧倒されてしまい途中から思考が停止する。
映画として見事。こだわりのキューブリック監督と聞くが、さもありなん。
台本だけを読めば本当にドタバタ喜劇。だけど、この場面の画をこういう構図にするか、こういう間(テンポ)や場面の切り替えで見せるか。ここにこのバックミュージックを入れるか。二重三重の懸け言葉的な構造をしつらえる(わざわざ「これはフィクションです」といれる反語的な誂え)。
空軍基地では、狂った命令が進行してんやわんやなはずなのに、それを阻止しようとする大佐の表情、あまり抑揚のない言いまわし。風貌はチャップリンの『独裁者』を想わせる。
迷走する会議室では、アクの濃いキャラが異常な発想を喚き散らす中、進行する最高指導者同士のなんじゃこりゃの会話。
作戦実行隊員たちの、懐疑的、困っちゃったなあという会話から、妙にハイテンションになっていく様。有名なロデオのシーン。
奇抜なんだけど、絶妙に挟まれるリアリティのある、隣のオジサン的な日常会話。
設定は奇抜だが「あるある感」満載の、役者はまじめにやっているのに笑いを誘うコント的な場面が続くが、役者の迫力が違う。そういうコント的な場面が続くのに、へたなスパイ映画よりもハラハラさせる展開。そしてバックミュージックのおかげで、時にその場面を妙に客観的に眺めさせられることによって、じわじわと拡がるすぐそこにある不安と焦り、恐怖。
映画の中だけでのバカ騒ぎに思えなくなってくる。他の似た題材の映画なら、映画館から出た時には「あれはしょせん映画の中の話」と収められるのに。
これらをすべて計算してやっているのだろう。なんという監督なんだ!。
邦題は、直訳すると微妙に違って誤訳とする向きもあるし、マッドサイエンティストは主役じゃないから変だという方もいらっしゃる。
けれど、映画を観終わって改めて邦題を読むと、シュールな映画のエッセンスを切り取った、これ以外にはない題だと思う。そう、なんだかんだいって原爆・水爆に関わることに異常な愛情を捧げている人々のドタバタ劇(そしてそれを危険視しながらもどこかで頼りにしてしまっている我々への皮肉)。
異常なのは博士だけ?将軍だけ?
映画の中で繰り広げられる茶番としたいけど、背筋が寒くなってくる…。
有名なラスト。「また逢いましょう」は甘くけだるく…。