劇場公開日 1989年12月16日

「「人生は映画のようにはいかない」」ニュー・シネマ・パラダイス TSさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「人生は映画のようにはいかない」

2024年12月15日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

悲しい

幸せ

映写室で来る日も来る日もフィルムを回し続ける職人。それは彼が望んだ人生ではなかったのかもしれない。何度も何度も同じ映画を掛ける。台詞を覚えて俳優に話しかけるほどに。自嘲気味に話す職人は、映画に取り憑かれ、映画を観に来る人を楽しませることを喜びにする。
映画に取り憑かれた少年。来る日も来る日も映画館に通い、フィルムを観ただけで台詞が出るまでになる。機転が利き、賢い彼は、小学5年で職人に弟子入りする。
小さな顔で、映写室の小窓からスクリーンと館内の様子を見る。映写技師の特権だ。

悲しい出来事を経て、少年は、職人の後を継ぐ。
やがて少年は成長して青年になり、恋をする。光を失った職人は、彼に語りかける。映画の台詞で。一度実った恋は、職人の予言通りに儚く散る。

そして職人は青年に自分の言葉で語りかける。
「人生は映画のようにはいかない」「この村を出ろ」「戻ってくるな」と。
映画で繋がった絆。職人は、青年の非凡な才能に気づいた。だから、立ち止まるな、と背中を押した。ずっと側に置いておきたい、息子のような弟子を。

映画が唯一と言っていいほどの娯楽だった時代。タバコをふかし、居眠りをし、授乳し、あんなことまでしながら皆で観た映画。
田舎の村から世界を知り、愛を、笑いを、悲しみを、怒りを皆と共有する空間、映画館。

身を立て、成功した青年は壮年になって職人の死を知る。
故郷に戻った彼の部屋には、映画の思い出が、母の手で大切に残されていた。
しかし、映画館は・・・。

職人が弟子に残したフィルム。
それは、職人と弟子にしかわからない、最高のプレゼントだった。映画への愛、そして弟子への愛が詰まっていた。

職人は、故郷の村で、誇らしかったに違いない。映画の世界で成功した弟子のことが。
そして、自分の仕事に誇りを持っていたに違いない。どんなに素晴らしい映画も、腕のいい映写技師がいないと、ちゃんと鑑賞できないのだ。職人も現場で映画を作っていた一人なのだ。観客の前で最後の仕上げをしていたのだ。

フィルムは燃えなくなった。そして、フィルムはデジタル信号に置き換えられた。
映写機は回さなくて良くなった。
街から小さな映画館が消えた。
それでも、映画を観に行く。人生は映画のようにはいかない。わかっている。でも、映画を観ている瞬間は、その世界に浸りたい。

あの曲がかかると、もう何度も観たこの映画を思い出す。たぶんこれからもずっと思い出すだろう。
大きな愛の詰まった、最高の映画。

TS
りかさんのコメント
2024年12月18日

その音楽🎵はモリコーネ、
彼自身惚れ込んだ作品らしいですから、観る方もワクワクドキドキ💓してしまいます🥰

りか