「好き! 好き好き!!!!」ニュー・シネマ・パラダイス Chisaさんの映画レビュー(感想・評価)
好き! 好き好き!!!!
イタリア、シチリア島の小さな村。広場に佇む一つの映画館「パラダイス座」には、来る日も来る日も人々が押し寄せ、新作の映画に熱狂していた。少年トトもそのうちの一人だったが、彼は映画そのものよりも映写機に魅せられ、母親の目を盗んでは、映写技師のアルフレードの元へ通っていた。口が達者で生意気な彼を鬱陶しく思うアルフレード。しかし、トトの初恋や兵役、映画館の火事、アルフレードの失明などを乗り越えて、二人はいつしか互いにとってかけがえのない存在になっていく(ちなみに出会った頃の推定年齢はアルフレード50歳、トト7歳)。
兵役から戻ったトトは、進学のために島を出た恋人ともうまくいかず、鬱屈した日々を過ごしていた。そんなトトにアルフレードが突然、島を出ろと言い放つ。アルフレードは、まだ若いトトが、このまま小さな村に留まって生きていくことを許さなかった。自分はどんどん老いていくけれど、お前の人生はここからだ、というアルフレードの強い想いを受け、トトは都会に出ることを決める。絶対に帰ってくるな、帰ってきても自分の家には迎へ入れないと強固な姿勢を崩さないアルフレードの言葉を守り、トトはその後30年間も島へ戻らなかった。
島を出てからトトは映画監督として成功を収め、裕福な生活を手に入れていた。「トト」という愛称で呼ばれることもなくなり、人々は彼を「サルバトーレ」と呼んだ。そんな彼の元へ、アルフレードの訃報が届く。茫然自失のまま村へ帰還したサルバトーレを、変わらない住民と家族が、年月を経て変わり果てた姿で待っていた。幼少時代からの思い出が詰まった「パラダイス座」も、6年前に廃業していた。
葬式、家族との再会、映画館の取り壊しの後、アルフレードの妻から遺品の古いネガをもらったサルバトーレ。映写機でスクリーンに映し出せば、彼や友人たちと過ごした日々と、人々の熱気で溢れかえった「パラダイス座」の全盛期が蘇る。あまりにも鮮明に。楽しかったあの頃の記憶が、今も色褪せる頃なく刻まれていることの幸福感。サルバトーレは再び「トト」に戻るような心地になり、笑みと涙が溢れ出す、、、ってもうこの辺やばいの。老いの残酷。容赦なく移り変わっていく時代。目が眩むほどの過去の栄光、、、もうね、鮮やかすぎて。全てが。心に刺さりまくって感情移入の嵐。なんていい映画なのでしょう。
エンディングのクレジットタイトルにも愛がこもってた。本編のダイジェストみたいな映像が流れるの。無邪で好奇心旺盛なトト少年が出てきて、あぁ、この頃はまだ何も知らないんだ、ただただ映写機が好きという自分の気持ちにどこまでも正直で、毎日が輝いていたんだ...とか考えて余計に泣いた。
輝いていたものが徐々に朽ち果てていく様って、見ていて本当に辛い。人間に老いや死が訪れるのと同様に、建物は老朽化していつか取り壊される。サルバトーレは、「パラダイス座」の栄枯に自分自身の人生を重ねていたんじゃないかなぁ。一つの時代が終わった、という実感。辛いけれども生きている限り避けては通れない道。
年老いたあとに生きる活力になるのは、きっと「幸福な思い出」なんだろうなぁ。サルバトーレの表情を見てそう思った。記憶が拠り所になる。たくさん作って、ちゃん覚えておかないとな。
さて、この映画を撮ったジュゼッペ・トルナトーレ監督、どうも聞いたことがある名前だなと思ったら「鑑定士と顔のない依頼人」の人だった。美術品の鑑定士が主人公の作品だったから、有名な絵画もたくさん出てきて、世界中の美術館を旅しているような気分になる映画だった。「ニュー・シネマ・パラダイス」も、国といい時代といい、異世界感が半端ない。英語以外の言語の映画はあまり観ていないから、新鮮な気持ちになる。せっかくなら映画を観ている数時間だけでも、日常から逸脱できるような作品を選びたいなぁと最近は思う。まぁ、大泉洋とかも観てはいるけれどね...!笑