「心の壊れそうな切なさ」ニキータ Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
心の壊れそうな切なさ
総合:90点
ストーリー: 90
キャスト: 90
演出: 95
ビジュアル: 70
音楽: 65
いかれた麻薬中毒の不良が、警官殺しの罪で死刑となるのと引き換えに政府の秘密工作員として教育される。迫力のある活劇はあっても、活劇映画というよりも心の動きと傷を描いた作品。個人的にベッソン監督の最高傑作。
最初はどうしようもない馬鹿で屑の不良だった。だが工作員の教育機関で規律を学び、また工作員として社会で生活をして恋人も出来て、彼女は普通の社会人としての幸せも知ることになった。だから家庭での幸せを感じながら、厳しいプロの工作員として人を殺す生活にだんだんと心身共に疲れ果てていく。正体を隠して扉越しに恋人とさりげなく話しをするふりをしながら狙撃銃を構えて目標を狙い、薬で意識を失った目標が硫酸をかけられて痙攣をする様子を目の前にし、ソ連大使館に侵入して命の危険を感じる。
もう限界である。神経が擦り切れて心が壊れそうである。もう彼女はかつての馬鹿な麻薬中毒患者ではない。人の心を取り戻し、優しい恋人のいる一人の女である。だが皮肉にも、それはプロの工作員として暗殺などに関わることでの引き換えに獲得したものに過ぎない。彼女がどんなに普通の幸せを求めたとしても、彼女にそのような自由など与えられるわけはない。彼女は理論上死人であり、本当の名前や戸籍すらすでになくしているのだから。最愛の恋人にすら真実を隠しておかなければならない辛さが、それを余計に深刻にする。
そんな生活に耐え切れなくなってしまった彼女が最終的に選んだ決断。それがとても切ない。最後の何ともいえない寂しさの余韻と共に映画は終わる。彼女の心の傷がまだそこに残っている気がする。
主演のアンヌ・パルローは不良から秘密工作員、そして社会人として傷つき自由を求めるまでの女の変化を見事に演じた。当時はこの作品でしか彼女を知らなかったが、かなり強い印象だった。彼女の上官と恋人役も良かった。