「.」何がジェーンに起ったか? 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて何度目かの鑑賞。半世紀以上前の全篇モノクロ作品。初鑑賞時が失念する程昔だったので、記憶違いも含め新発見等も多く、一旦、観始めるとグイグイ惹き込まれてしまう魅力があり、新鮮に観れた。カメラワークや演出に無理が無く、シンプルな構成で、二人の女性の愛憎が際立ち、非常に内容が判り易い。大まかな構成や展開等で楳図かずお原作の『おろち('08)』が似ている事に今回気付いた。細かな綻びや破綻も見られるが、それらを差し引いても紛う事無き超常的なモノに頼らない心理スリラーの秀作である事に変わりはない。75/100点。
・金髪とブルネットの姉妹、姉妹と母の違いはあれど肉親による相克、葛藤、共鳴と確執、それぞれの人生に与えた影響等、描かれ方は違えどそのモチーフ、テーマに伝説のストリッパー“ジプシー・ローズ・リー”を描いたミュージカル『ジプシー('62)』に似たものを感じた。
・本作の肝となるアイテム“ベビー・ジェーン”人形──序盤、タイトルコール~スタッフクレジットの際、壊れたこの人形が写されるが、これが事故の真相を物語ってる様に思えた。姉の“ブランチ・ハドソン”は身体を、妹の“ジェーン・ハドソン”は心を事故によって壊してしまった。
・終盤、浜辺のラジオから流れる臨時ニュース音声で、目撃者の証言として'40年か'41年型の黒い車を特別捜査班は追い掛けていると報道されるが、実際には'48年型のリンカーンコンチネンタルコンバーチブルが使われている。
・V.ブオノの“エドウィン・フラッグ”とその母“デリラ・フラッグ”役M.ベネットの掛け合いは、コメディリリーフとして華を添え、作品に深みを持たせている。物語は1917年、1935年及び1962年と三つの時代を跨ぐが、瀕死の肉親を残し、聴き付けた野次馬と云う聴衆の白い眼が見守る中、往年の黄金期を夢想し、踊り続けるラストカットは憐憫に満ち、強烈な印象を残し後を引く。
・何よりも本作の成功は“(ベビー)ジェーン・ハドソン”のB.デイヴィスの正に怪演と呼ぶに相応しい演技に由る処が大きいだろう。彼女は自ら醜悪なメイクを施し、喜々として狂ったヒール役を演じた。当初、カラーで撮影されていた本作を、より哀しく印象的に美しくなると全篇モノクロ撮影に変更させたと彼女は自著"This 'N That('87)"で告白した。亦、彼女の友人で『エアポート('75)』や『レイズ・ザ・タイタニック('80)』等で知られるプロデューサーW.フライと共にH.ファレルが書いた本作の同名原作を買取り、A.ヒッチコックに演出させようとしたが、生憎『サイコ('60)』がヒットし、次作『鳥('63)』の準備に掛かっていた為、多忙を理由に辞退された。
・隣家に住む“リザ・ベイツ”を演じたのは、B.デイヴィスの三番目の夫W.G.シェリー('45~'50年婚姻)との実娘(本作では"B.D.メリル"とクレジットされている)B.メリルである。
・キャリアにおいて本作以降、復活した“ジェーン・ハドソン”のB.デイヴィスとは対照的に、本作以降低迷期に入ってしまったのが、“ブランチ・ハドソン”役のJ.クロフォードである。本作の共演をきっかけに二人は公私に亙り仲違いし、いがみ合ってしまったのはエピソードに事欠かない程有名であり、その様をS.コンサイディンがノンフィクション"Bette and Joan: The Divine Feud('89)"として纏め、上梓した。亦、'17年にはB.デイヴィスをS.サランドンが、J.クロフォードをJ.ラングが演じ『フュード/確執 ベティvsジョーン('17・全八回)』としてTVドラマ化された。
・仲が悪かった有名なエピソードの一つして撮影時、未亡人('59年にA.スティールと死別)になっていたとは云え、ペプシコ社の会長夫人だったJ.クロフォードに対し、B.デイヴィスはセットにコカ・コーラの自動販売機を設置させたと云うのが挙げられる。
・酒屋に電話で、B.デイヴィスの“ジェーン・ハドソン”が声真似をし、註文を執りつけるシーンでは、どうしても巧く出来ず、“ブランチ・ハドソン”のJ.クロフォード自身が吹替えを行っている。
・劇中、往年の出演作としてTVに映されるのは、B.デイヴィスが『落下傘 "Parachute Jumper"('33)』、『Ex-Lady('33)』であり、J.クロフォードの場合は『蛍の光 "Sadie McKee"('34)』である。
・“ブランチ・ハドソン”のJ.クロフォードは『ビッグ・アイズ('14)』として映画化もされたM.キーンによる絵画"Sad Eyes"シリーズの蒐集家であり、A.リー演じる“ベイツ夫人”宅内では壁の"The Stray"を始め、幾つかのコレクションが見られる。
・“ジェーン・ハドソン”役は、I.バーグマン、R.ヘイワース、S.ヘイワード、K.ヘプバーン、J.ジョーンズ、J.ロジャースが、“ブランチ・ハドソン”役にはM.ディートリヒ、T.バンクヘッド、C.コルベール、O.デ・ハヴィランドが、“エドウィン・フラッグ”役にはP.ローフォードが予定されていた。
・“ハドソン”姉妹宅の外観は、ロサンゼルス市内のハンコックパークに在り、『オズの魔法使('39)』製作時に“ドロシー”役のJ.ガーランドが住んでいた家のすぐ隣であると云う。亦、ラストシーンは『キッスで殺せ!('55)』でも使われたマリブの浜辺である。
・主な撮影は約一箇月で終了したと伝えられている。低予算が大ヒットに化ける走りの一作であり、本作の場合、約75万ドルと云われる製作費を僅か11日間で回収し、公開一年後には約900万ドルの興行成績を記録した──これは現在の貨幣価値で、約7,250万ドルを優に超える額だと換算されている。
・米国の著名な評論家でプロデューサーのR.イーバートが選んだ"Great Movies"に入っており、同じく評論家でプロデューサーのS.シュナイダーの「死ぬ迄に観た方が良い1001本 "1001 Movies You Must See Before You Die"」にも選出されている。更に「映画芸術の遺産を保護し前進させること」を目的とした団体“AFI(American Film Institute)”が'98年に発表したアメリカン・ムービー・トップ100にもランクインしている。
・鑑賞日:2018年11月23日(金・勤労感謝の日)