劇場公開日 1984年8月25日

「 ロイの成長要素が弱い」ナチュラル 根岸 圭一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 ロイの成長要素が弱い

2025年5月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

 今作は『グッドモーニング・ベトナム』『レインマン』『スリーパーズ』『バグジー』といった数々の良作を生み出したバリー・レヴィンソン監督の作品ということで鑑賞した。だが、今作はそれらの作品にはとても及ばないと思わされた。

 まず、ロイが野球から身を引くことになった銃撃事件の詳細がよく分からない。ここはストーリーの根幹に関わる部分なので、納得がいくように作り込まれていないと人物設定に深みが出ない。

 あと、今作はロイの成長の描き方がいまいちだ。彼は入団当初から、若い頃と同じようにずば抜けた野球の能力を発揮する。だが最初から順調に行き過ぎていて面白くない。ストーリー構築の基本とは、主人公が困難に遭遇して能力や内面を磨いていき目的を達成するのが王道で、そこが視聴者の共感を呼び面白さを生み出す。例えば、新人のロイは監督やチームメイトとの衝突、それによる彼の葛藤があったが、実力で徐々に彼らを納得させる等のエピソードがあれば良いと思うのだけど、特にそういうものは無い。

 ロイがスランプに陥った理由も、そこから脱却した理由も弱い。スランプに陥った理由が監督の姪と付き合ったことによるジンクスという、理由として曖昧なものだ。そしてそこから脱却できたのは、かつての恋人が表れたからという、これもスランプ脱却の理由としては曖昧だ。ここにロイの成長要素があるとも言えるけど、やはり理由としては弱すぎる。スランプってそもそも原因が言語化できないものなのかもしれないが、映画としてはそれでは面白くない。

 今作はwikipediaによると古典的名作と名高いらしいけど、以上の理由からとても良い出来だとは思えなかった。今作はバリー・レヴィンソン監督の作品としてはキャリアの前半にあたるので、まだ彼の本領が発揮されてなかったのかもしれない。

根岸 圭一