「パリでモデルの仕事をしている若いバランティーヌ(イレーネ・ジャコブ...」トリコロール 赤の愛 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
パリでモデルの仕事をしている若いバランティーヌ(イレーネ・ジャコブ...
パリでモデルの仕事をしている若いバランティーヌ(イレーネ・ジャコブ)。
英国にいる恋人は彼女に冷たい。
特に、彼女が広告モデルをしはじめてからは冷たくなった。
ある夜、仕事帰りに車を運転していた彼女は、よそ見をして一匹の雌犬を轢いてしまう。
首輪につけられた郊外の住所に連れて行くと、飼い主と思われる初老の男(ジャン=ルイ・トランティニャン)がい、犬はバランティーヌに任せる、と素っ気ない対応をとられる。
男は退官判事で、現在の関心事は近所の盗聴なのだった。
「ここには人生の真実がある」と男は言うのだが・・・
といった内容で、ジャン=ルイ・トランティニャンが映画を引き締め、深みを加えた一編。
当初は正義感から、一見すると変哲のない郊外の住宅地の麻薬売買監視からはじめた盗聴だったが、近所の生活には彼のいうところの「真実」があった。
それは、いまのところ表ざたにされることのない秘密の生活で、ちょっとした嘘や隠し事がその後の人生に小さな綻びや大きな破綻をもたらすのだが、長い人生で同じようなことは幾度となく繰り返し見てきたことだ。
そう彼はいう。
ちょっとした嘘や隠し事、それは誰にでもあるだろうと、若いバランティーヌは思うが、それこそが人生におけるプライバシーであり、プライバシーを守ることは最重要なことなのだ。
結果、小さな綻びや大きな破綻が到来したとしても。
彼女が目にする小さな破綻は、彼女のアパルトマン近くに住む司法試験を目指している青年の人生。
彼には年上の恋人がいたのだが、その恋人は初老の退官判事の近くに住んでおり、ふたりの会話は盗み聞きされていた。
退官判事が自らの盗聴を告発したことで、青年は司法試験に合格したものの、退官判事の裁判がきっかけで恋人に棄てられてしまう。
禍福は糾える縄の如し・・・
『青の愛』でも同じような感慨を抱いたが、本作ではそれはより一層。
最終盤、「青」「白」「赤」の登場人物が一堂に会する事件が発生することで、先の感慨は強くなりました。
本作が遺作となったキエシロフスキー監督だが、未映画化の3部作の脚本があり、「天国」「煉獄」「地獄」がモチーフになっている。
このうち、「天国」は『ヘヴン』として映画化され、「地獄」は『美しき運命の傷痕』として映画化された。
後者でも「禍福は糾える縄の如し・・・」の感があり、機会があれば再鑑賞したいなぁと思った次第です。