「滅びゆく国が最後に見た夢」虎の尾を踏む男達 neonrgさんの映画レビュー(感想・評価)
滅びゆく国が最後に見た夢
1945年、撮影の最中に終戦を迎えたこの作品は、戦後の混乱期に完成されながらも、GHQ(連合国軍総司令部)の検閲によって公開は1952年まで延期された。武士道精神や忠義といった戦前の価値観が、占領政策の文脈において「望ましくない」と見なされたことがその一因であり、この映画はまさに価値観の転換点を映す鏡でもある。
エノケン(強力)のギョロ目と大きな口を活かしたコミカルで親しみやすい演技と、大河内傳次郎(弁慶)の古典的・荘重な存在感は鮮やかな対比を成し、物語に陰影と深みを与えている。
クライマックスにおける弁慶の酔いどれの場面は、忠義を貫いた者が流す「無言の涙」であり、別れの舞であり、命を賭した演技のエピローグでもある。その場面の美しさと儚さは、戦いのない決着の余韻として観る者に強い印象を残す。
そしてエノケン演じる強力の、夢から覚めるようなラストの描写――義経から贈られたであろう衣と印籠を手に、現実に戻る彼の姿は、まさに「滅びゆく国の最後に見た夢」の象徴である。過去の栄光と美学を追体験しながらも、現実の変化と別れの予兆を静かに物語っている。
80点
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