「まさしく魂は細部にやどる」東京画 あんゆ~るさんの映画レビュー(感想・評価)
まさしく魂は細部にやどる
1985年西ドイツ・アメリカ合作映画。93分。ヴィム・ヴェンダースといえば、「ベルリン 天使の詩」がなんといっても印象的なのですが、本作は彼が敬愛する小津安二郎監督の魂を求めて、80年代の東京での心の旅路を綴ったドキュメンタリーでございます。
この時期の日本の経済成長率は4%台。それなのに、本作に出てくる日本人がまったく幸福に見えないのはやはり数字のトリックがあるということなのでしょう。(GDPと幸福度は必ずしも一致しない。)
そして、本作の「視点」は、小津の作品で描かれていた東京の姿がどこにもないことに気づき、迷い、そして混沌を深めていきます。「この街では、純粋で本質的なものなど存在しない」といった、本作に出てくるドイツ人ビジネスマンの言葉がとても印象的。
東京ディズニーランドが完成し、街にいけば若者がロカビリに明け暮れ、公園では子供が野球をしている。カメラはそれでもさらなる探求をつづけていき、ようやく小津監督の魂に出会います。
それはパチンコ屋の釘師であったり、ゴルフの打ちっ放しにふける人々であったり、レストランで使うディスプレイ用のプラスチック食品をつくる人であったり。小津監督が描いた日本の魂というものが、きちんと形を変えて息づいている。本作に出てくる小津監督の側近だった人々の、彼に対する崇拝ぶりもまたしかり。(そして、わたくしなんかは観ててとても息苦しくなってくるのです。)
小津監督の作品は「東京物語」しか観たことないのですが、それを観て、表面的な印象とは裏腹にえらい怖い作品を作る人だなと思ってしまった自分がいたのですが、本作を観ると、日本人でいることがしんどくなってきました。
いずれにせよ題材の核心に迫っていくヴェンダース監督はやはり凄い人だと思いました。