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1988年製作のポーランド映画『デカローグ』全10話、DVDと国内最終上映で鑑賞しました。
監督は、クシシュトフ・キェシロフスキ。
脚本は、キェシロフスキとクシシュトフ・ピェシェヴィチの共同脚本。
当初テレビのミニシリーズとして製作されたものです。
鑑賞媒体ごとにわけてレビューします。
まずはDVD鑑賞の第1~4話。
第1話「ある運命に関する物語」
大学講師のクリストフ(アンリク・バラノウスキ)と息子のパヴェル(ヴォイチェフ・クラタ)の物語。
世の中はすべて計り知ることが可能と考えるクリストフが遭遇する予想外の出来事・・・
憂鬱な結末で、後半がやたらに長い感じがする。
敬虔なキリスト教徒の伯母も登場して、図式的にわかりやすいのも疵。
評価は★★★(3つ)。
第2話「ある選択に関する物語」
ふたりの男性の間で選択に迫られる音楽家の女性ドロタ(クリスティナ・ヤンダ)の物語。
ふたりの男性は、重い癌を患う登山家の夫と、不倫相手の音楽家。
彼女は、不倫相手の子どもを宿している。
夫が生き延びるのなら、堕胎しようと考えているのだが・・・
これも陰鬱な物語だが、夫の主治医の老医師(アレクサンデル・バルディーニ)の話が加わり、話に深みを増す。
老医師は、大戦中軍医で即時転任を命じられたことを家族に電話で告げ、夕刻帰宅するも、爆撃で家族を喪失した。
堕胎をするかどうか、夫を見捨てるかどうか悩む女性音楽家は人為。
老医師のそれは運命というべきもの。
ふたつの対比が興味深い。
結末には、少しの希望もみえる。
評価は★★★☆☆(4つ)。
第3話「あるクリスマスイヴに関する物語」
クリスマスイヴを家族と祝っていたタクシー運転手(ダニエル・オルブリフスキー)のもとに、かつての不倫相手(マリア・パクルニス)が訪れる。
パートナーの男性が行方不明になった、探すのを手伝って欲しい、と。
過去の後ろめたさを感じていたタクシー運転手は、自車が盗まれたと妻に告げ、捜索を手伝うことに・・・
孤独と後ろめたさと責任感が綯い交ぜの一編。
オルブリフスキーの誠実なのか不誠実なのかがわからない個性が活かされている。
話の行く末は、早い段階で察しがつくが、それほどメランコリックでもない。
観方によれば、コメディともとれるし。
評価は★★★☆☆(4つ)。
第4話「ある父と娘に関する物語」
復活祭の翌日、演劇学校に通う娘(アドリアーナ・ビエジンスカ)が、出張中の父(ヤヌーシュ・ガヨス)の重大な手紙に気付く。
表書きは「死後、開封のこと」とある。
気になった娘は逡巡した挙げ句に開封するが・・・
と、ここまで観た中では最も生々しい。
封筒の中には、娘を産んで5日後に死んだ母からの手紙が入っており・・・
娘は父に「わたしはあなたの子どもではなかった・・・」と告げ、父に父以上の愛情を抱いていたことを告白する。
短い尺で、真実がいくつも入れ替わる脚本の妙。
真相は明らかにされないもどかしさ等、観る側に委ねられている。
陰鬱で生々しく、結末も曖昧。
本シリーズの特徴をすべて備えている。
評価は★★★☆☆☆(4つ半)。
つづいては国内最終上映鑑賞の第5~10話。
第5話「ある殺人に関する物語」
他人への悪意を撒き散らすふたり。
ひとりは、仕事もなく町をぶらぶらしている青年ヤチェク(ミロスラフ・バカ)。
もうひとりは、中年のタクシー運転手(ヤン・テルザルフ)。
このうち、片方が被害者、もう片方が被害者となる・・・
という物語。
ここへ第三の男ともいうべき若き弁護士ピョートル(クシュトフ・グロビフ)が加わるが、弁護士は自身も含めて結果的に誰も救えない。
それは、殺人者は法の下に国家に殺されるから・・・
と、連作中で最も救いのない陰鬱極まりないエピソード。
フレームの端部分にシェードをかけ、明度も彩度も落とした映像が陰鬱感を高める。
評価は★★★☆☆(4つ)。
第6話「ある愛に関する物語」
郵便局で働く二十歳前の青年トメク(オラフ・ルバシェンコ)が覗き見るのは、向かいの棟に暮らす成熟した女性マグダ(クラジナ・シャポフォスカ)の肢体。
触れないことで愛を高める青年はストーカまがいの行動に出て・・・
と、欧州映画でわりと出現頻度の高い覗き見映画。
トメク青年はマグダに接近するが、年上のマグダはトメクに「愛など存在しない」と弄ぶ。
マグダは傷ついたトメクに愛めいた情感を覚えるが、トメクは醒めきっている・・・
と展開。
男も女も身勝手な愛を振り回す困った作品なので、コメディに振り切ってない分面白くなく、つまらない。
評価は★★★(3つ)。
第7話「ある告白に関する物語」
16歳未婚で母となったマイカ(マヤ・バレルコスカ)。
生まれた女児は母エヴァ(アンナ・ポロニー)の子として育てられ・・・
6年後、マイカも22歳となり、自身が産んだ娘アニヤ(カタリナ・ピオマルスキー)を連れ去ってしまう・・・
他の映画でも観たような内容で、展開に乏しい。
アニヤの父親でマイカを教えていた教師も登場するが、ほとんど何もしないに等しい。
母娘の過去の確執も明確に描かれず、あまり興が乗らず、といったところ。
評価は★★★(3つ)。
第8話「ある過去に関する物語」
倫理学の女性老教授ゾフィア(マリア・コシャルスカ)のところへ、教授の著作の米国翻訳を行った中年女性エリザベタ(テレサ・マシェスカ)が訪ねてくる。
ふたりの間に、過去、なんらかの因縁があった。第二次大戦中の出来事であることがわかってくるが・・・
ミステリ風味もあり、人間の因縁を感じる物語。
(片方がポーランド人で、もう片方がユダヤ人なので、年齢からしてもその関係は早い段階でわかるが)
市街地の旧い住居を訪ねるあたりは、怪奇風味も。
最終的には、ゾフィアとエリザベタのあいだのわだかまりは氷解するが、終盤登場する男性との間ではそうはならない。
戦争の苦くて重い記憶。
冒頭、教授の倫理学講義で、第2話の出来事が倫理の問題として取り上げられるあたりも面白い。
評価は★★★☆☆(4つ)。
第9話「ある孤独に関する物語」
性交渉がなくなった夫婦ロメク(ピョートル・マカリカ)と妻のハンカ(エワ・ブラシュスク)の話。
夫のEDが原因なのだが、まだ三十代と思しきふたりにはツライ。
妻は大学生との不倫に走り、夫は悶々とする。
最終的に夫は自殺を図るが・・・
メランコリックな内容なのだが、他の作品と比べると、それほどでもなく、観方によってはコメディ風味も感じられる。
それは、最後に救いがあるからだが、微笑ましい。
評価は★★★☆(3つ半)。
第10話「ある希望に関する物語」
亡父の残した高額切手に翻弄される中年の息子ふたりの話。
兄は会社員のイェジ(イェジ・シトゥール)、弟はロック・シンガーのアルトゥル(ズビグニェフ・ザマホフスキ)。
切手蒐集家の老人は、第8話の冒頭に登場していた。
稀少切手の「高額さ」に魅了されるならだけなら強欲話なのだが、「切手そのもの」の魅力に取り憑かれるあたりが可笑しい。
シリーズ唯一の笑える話だが、見方によってはコワい話とも取れる。
人間の愚かしさが出ている好編。
評価は★★★☆(3つ半)。
と、これにて10話終了。