「町、山、ベトナムの連関構造」ディア・ハンター しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
町、山、ベトナムの連関構造
結婚式に始まり葬式で終わる
物語の場面は、以下のように変化する。つまり、町、山、ベトナムの連関構造である。
町(結婚式)、山、ベトナム、町、山、ベトナム、町
舞台となるのはアメリカ、ペンシルバニアの田舎町。町には製鉄所があり、主人公の男たちは皆、同じ職場の仲間だ。
男たちは仕事が終われば酒場に集う。町の近くには豊かな自然があり、週末には山で狩りを楽しむ。
そして彼らはロシア系移民だ(教会のシーンが登場するがロシア正教である)。贅沢ではないが、平穏な生活がそこにはある。
しかし、時代はベトナム戦争のさなか。町の暮らし、山での狩りは穏やかだが、上に書いた展開の通り、そこに入り込むベトナム戦争がすべてを狂わせる。
町から3人の男がベトナムに赴く。うち、1人は死に、1人は両足を失う。
冒頭から映し出される田舎町での暮らし。始めは結婚式のシーンが、その準備から式後のパーティまで、たっぷりと描かれる。
主人公マイケルはベトナムから生還する。彼が戻った町は、一見、今までと変わらないように見える。しかし、狩りの名人だった彼は鹿を仕留めることが出来ない。そう、すべては無残にも変わってしまった。友は死に、葬式のシーンで本作は幕を下ろす。
本作のヒロインであるメリル・ストリープ演じるリンダが「こんな人生のはずではなかった」と語るシーンには胸が締めつけられる。
仲間の葬式の後、誰彼ともなく歌うのはGod bless America。映画の中で、出演者たちが歌うシーンとしては「ベスト・フレンズ・ウェディング」でのI say a little prayerと匹敵する名場面だと思った。
ベトナムでのシークエンスでは、激しい戦争のシーンが描かれるわけではない。しかし、戦争の狂気を存分に描いていて、そこから、声を上げて逃げ出したいと思うほどだ。
派手な表現、声高なメッセージはここにはない。しかし、内臓にずしりと来るような重いものを残す。そういう映画である。