天国と地獄のレビュー・感想・評価
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『天国と地獄』と言うが、この映画には天国が登場しただろうか?権藤は会社を追い出され、犯人は結局。どちらも、天国とは言えない。天国があるとすれば、権藤を追い出して、経営を手中に収めた悪徳重役って事になる。
さて、そうなのだろうか。
権藤が『新しく始めた靴屋』なのだろうと思う。権藤が本当の天国を最後は掴んた、と黒澤監督は言いたかったのではないかと思う。
やっぱり、この映画は傑作だと思う。
こう言った『阿片窟』の様な所が、黄金町にあったのかは知らないが、25年くらい前まで、この辺(黄金町駅)は『オランダ、アムステルダムの飾り窓の女』の様な店が軒を連ねていた。入った事はなかったが。日本の様でなかった。川崎の堀之内にもそんな所があった。
黄金町のゴーゴー喫茶のお品書きの看板に天丼100円カツ丼100円安い!阿片窟の宿屋のお休みも100円だった。全く地獄だ。
さて、今では、そんな所なくなったのだろうか?
追伸 この頃世間を騒がせたのは『吉展ちゃん事件』を始めとした誘拐事件だったと記憶する。日暮里の大火とこの事件が妙に記憶に残っている。
不信なことが、 エド・マクベインの原作だから?
映画レビューのクラスで使おうかと思ってみてみた。 黒澤明は大好きなので、これを何度か見ている。 1963年の作品だと改めて背景を考え、どこに焦点を当てて書こうか?
権藤金吾(三船敏郎) の権力に屈しない頼もしさや自分の地位や資産や株を諦めて、お抱え運転手の子供を救おうか葛藤していくところ?人間の善悪を金の価値で決めない行い? それとも、医学生、竹内銀次郎(山崎努) に焦点を当てて、彼の貧困育ちや環境悪や孤独への責任転嫁からくる自業自得。いや、果たして、自業自得なのか、自助だけでは生きられないという人間性?それとも、大金持ちの育ちで、世間知らずの天使の心を持った権藤の奥さん。 それとも、権藤のお抱え運転手で、息子を誘拐された父親、青木の心境と行動?それとも、戸倉警部の操作側や戦後の社会情勢(黄金町(こがねちょう))?竹内を泳がしたことによりまた一人殺させちゃったね。こう言うこと当時の警察側ではどう判断するんだろう?薬中だからいいの?それに権藤さんのために星を泳がせるが、前向きな権藤がこんなこと本当に望むだろうか!それに、こう言う捜査の善悪の判断は?
色々考えているうちに、一番感情移入しやすいのは権藤。彼の心の葛藤はあるが、マスコミのせいもありあまりにも聖人になってしまったので、ちょっと、書きにくい。それに、役員から職工にと初心に戻ってでなおせるこの人物は大物過ぎる。二足三文ではなく、靴の価値の意味、全体重を乗せる靴の重みをよく知っている。個人的にだが私も靴だけは結構高く素材や質や縫製のいいものを履く。全体重を乗せるから。
医学生、竹内銀次郎(山崎努) に焦点を当ててみたい。彼は自分が貧しかったことを、そして、権藤家の暮らしは天国で、自分の夏は暑く、冬は寒いアパートは地獄だと。彼は権藤家が気になるようになって、毎日、望遠鏡で、眺めて、羨望の気持ちが、いじめ(ここでは誘拐犯罪)に発達していったということだ。子供の頃も貧乏であったようだ。ただ、医学を学んでいるようだから、賢かったに違いないし、論理的なことも得意だったようだ。 当時のこだま号、在来線特急のトイレの窓が鞄の厚み7センチだけ開くことや電話があることも調べ上げていた。黄金町の麻薬や青線地帯にも詳しく、ちょっと不良インターンと言ったほうがいいかも。
高度成長の波の下敷きになった竹内家はどんな生活だったのか!知る術もない。そこは焦点じゃないからねえ。高度成長期に生きるたくましい権藤がヒーロー化される時代だったかもね。
竹内は永山則夫の世界だったのかもしれないねえ。
でも、息子をどうやって医科大学に出せたのか。エド・マクベインの原作がそうなっていたから?竹内家が貧しくても子供を大学に行かせたのか?町の有志が援助したのかわからないが、当時としてはこの設定は不自然かもね。それに手に大きな傷があるがなぜが何も分からない?ただ手掛かりの一つ?違和感が残る竹内の背景。最後のシーンで竹内が権藤に会いたがって留置場で面会するシーンだが、精神的に天国と地獄の立場は変わらない。権藤は苦難を乗り越え天国の階段にいる。苦難を乗り越えかたを知っていると行ったほうがいい。竹内は苦難が嫉妬に変わってしまっている。そして、自分が地獄へ落ちていくことに対する恐怖感?傷がついている方の手の震え? 権藤を地獄に落としてほくそ笑みたいと思っていたが自分が死刑になる。
はっきり言って、警察の横暴が現れている。一人の人間をもっと犯罪を犯させるようにする事は倫理的だろうか? 胸糞が悪い映画だ。
4/20/22 追加
映画レビューのクラスで使った。 英語圏の学習者で中級の上(ACTFL)以上の学習者。1.5x2=3時間弱のクラス。 まず、時代背景が重要なので1960年安保闘争から、1064年のオリンピックに向けて、政治・経済・社会の動きについて学習者に調べさせ発表させた。 この映画の登場人物の誰に感情移入できるかとか、なぜできるかとか、一番好きなシーンはとか話し合った。ズームのブレイクアウトルームを使っているので、ペアで話しているが、クラス全員に戻った時、数人に意見をいってもらった。権藤の秘書、川西に感情移入できるといった学習者の理由は現代社会においてよくあったり見たりするケースで感情移入しやすいと。好きなシーンは最後の、権藤が竹内のいる監獄を訪れたシーンだというのが多かった。竹内の絶叫hシーンは映画の締めくくりにぴったりだったようだ。学習者の一人は、『竹内は狂ってしまったのか』と疑問を投げかけ、このシーンで『初めから狂っていた』と言っている。それは彼の立てた綿密な犯罪計画からしても、誘拐犯罪に対してこういう計画を立てること自体狂っていると。こういう頭の良さを医学に使えと。れいこ、戸倉警部、権藤、竹内、マスゴミが焦点になったが、警察のマスコミ利用により、もう一人の麻薬患者を殺させて、社会が麻薬患者をどうでもいい存在として扱っているという意見があり、これについて、クラスは2つに分かれた。一方はそれは操作の過程であって、故意に、もう一人の人間を殺したわけではないという。
私も個人的な意見をちょっと述べた。特に竹内の孤立感、追い越せ、追いつけという高度成長期に自分をどう確立していく方法かわからなく、負の方向の動きに走ってしまう。 『共助』の動きはどうなっているのか?今の社会との共通性が多くある。
古さを感じず、引き込まれる…
前半は三船敏郎が中心に描かれ、テンポも良く、どんどん次の展開に引き込まれる。特に身代金受け渡しのシーンは印象深い。後半は仲代達矢ら刑事の執念の捜査、犯人が山崎努とわかってからの張り込みなど、緊迫感ある。黄金町のドヤ街などインパクトあり。三船の会社の立ち位置や、捜査模様が丁寧に描かれていただけに、ラスト、なぜそうまでして、恨みをもって犯行に及んだのか、もう少し描いてほしかった。結局、高台にある三船の豪邸が天国に見え、下界で暮らす自分の境遇が地獄と言うことだったのだろうが、医者の卵?インターンの青年が地獄の境遇と言うのが、あまり腑に落ちなかった。三船敏郎は渋く、力強く、今の役者では中々代わりはいない。
人の本質で現代でも変わらない
最近SNSでの特に有名人への誹謗中傷が社会問題の一つになっているが、犯人の動機もそれと本質的には同じで、表面的に見て、雲の上の天国にいる様に見える有名人を恨み、叩き、不幸があると喜ぶ。多くの人の根底にあるそんな感情が今誰もが平等に発信できるようになったことで、SNSに溢れているのだけではないか。ただそれを人の本質と理解しながらも、人を恨むのではなく自分にとっての幸せを目指すことが大事だとも気付かされた。
息が詰まる場面も多く、あっという間に見終わってしまった。
シンドラーのリストでもオマージュされたシーンを始め、刑事達が夜に車に乗っている時の灯りなど、見ていて美しいシーンも多く、このシーンどこかで観たような、と思ってしまうほど後に多くの映画シーンに影響を与えていることがわかる映画でした。
人間それぞれの地獄
映画館やDVDで何回も観ているのに、改めて観ると、これって黒澤版『罪と罰』のような気がしました。靴職人から身を興した重役に対する自己チューな逆恨みと、インターンでありながら冷酷な殺人者と言う矛盾を抱える悪役は、今観ても鮮烈な印象を受けます。クライマックスの面会室のシーンは、山崎努の鬼気迫る演技と叩きつけるようなシャッター音に打ちのめされるようでした。
後半の展開に見応えあり
十数年前に見た時は新幹線開業前の「特急こだま号」を利用した身代金受渡しのシークエンスまでが強烈な印象で その後は肩すかしを食らった印象があったのですが、時間の経過を経て再見すると 犯人像が明確になってからの後半50分の展開こそがスリリングで抜群に面白いと感じました。
高度成長期における日本のダークサイドを徹底的に暴いてみせる作品であり、特に横浜繁華街やスラムのシーンは現代ならば炎上必至の描写かも。50数年前も今と同じように東京オリンピックに向け日本のイメージアップ作戦真っ只中だったはずですが、よくここまで突き放して冷徹に描けたなー とビックリです。 さすが黒澤、当時を代表する演劇人が総動員されており、三船仲代山崎努はもちろん ちょっとしか映らない脇の俳優たちに至るまで アンサンブル演技の素晴らしさに圧倒されました。 戦後 日本中にはびこった薬物依存患者に目を背けず描いている点でも注目に値します。
誘拐事件の現金受け渡しと犯人を追い詰めるスリルある展開。
単純に面白かった。143分もあるが、その長さを感じさせない。大きく二部構成になっており、一部は誘拐からの身代金の受け渡しでの犯人との攻防をスピード感たっぷりに描く。まず、会社を乗っ取るために必要なお金を身代金として渡さなくてはならなくなる権藤(三船敏郎)と運転手青木とのやり取りが面白すぎる。権藤の右腕として長年働いてきた者の裏切りなど、ただの誘拐事件だけではなく、そこに関わる人物達のそれぞれの状況がそのキャラクターも相まって、話を飽きさせなくしている。
そうとにかく飽きないのだ。脚本が秀逸。次から次へと起こる出来事に登場人物達がそれぞれの思惑で動く姿が実に面白い。
白黒映画だが1シーンだけ色がついている演出があるのだが、当時どのようにやったのだろう。知りたいところ。
惜しいなと思ってしまったところは犯人の動機。もっと深い怨恨みたいなのを想像していたため、ただの嫉妬だったのか、、、とガクッとなってしまった。ま、人を恨む動機なんて人それぞれだから良いのだけど、その動機が薄いためか地獄のインパクトが減ってしまったかなと言った感じ。
天国も地獄
DVDで2回目の鑑賞。
原作(キングの身代金)は未読です。
会社での地位を守るのか、運転手の子供の命を救うのか?
様々な思惑と倫理観が交錯する権藤邸での議論が中心の前半から、警察の地道で堅実な捜査が誘拐犯人を追い詰めていく後半へと、常に緊迫感とダイナミズムを維持しながら、ノンストップで駆け抜けていく演出が秀逸の極みでした。
特急「こだま」を舞台にしたあっと驚く身代金受け渡しシーン、白黒画面に一色だけ色を着けるパートカラーのインパクトなど、印象的な場面が目白押しでした。横浜のスラム街のような路地裏の風景も、戦後の混乱が生み出したカオスの吹き溜りのようで、当時の様子を知る貴重な映像でした。
夏の、うだるような暑さのある日。クーラーなど無いボロアパートの自室から見上げる、まるで世間を睥睨し自らの威を見せつけるかの如くに建つ、丘の上の豪邸。
そこに住む者たちの暮らしを想像するにつれ、犯人からすれば自分の住む場所はさながら地獄に思えたことでしょう。
募る羨望と嫉妬の末、聡明な頭脳は天国の者たちを苦しめ、虚栄心を満足させんがための犯罪計画を練るに至りました。
しかし、そんな天国に住む者たちが幸せなのかと言えば、決してそうとばかりは言えそうに無いのが実際のところ。
パワーゲームに勤しみ、権謀術数の網を掻い潜り、殺伐とした空気の中を突き進むような、欲にまみれたものでした。
それは果たして天国と言えるか。豪奢な屋敷も単に見栄っ張りの象徴のようで、中身の伴わない虚飾の城に思えました。
天国と地獄は各々にヴィジョンがあって、己の価値観から羨んでみたり妬んでみたり。ですが一皮剥けば、どちらにも苦悩があり辛いことがある。一括りにするのは的外れかも…
現在の格差問題を当時から予見していたかのような、黒澤監督の冷徹な目線が反映されているすごい映画だと思いました。
[以降の鑑賞記録]
2019/07/27:DVD
※修正(2023/06/02)
とてもよかった
冒頭の自宅から電車まで舞台劇のように人が出入りするだけで場所が動かなかったがすごくスリリングだった。捜査会議も丁寧すぎるのではないかというくらい全部説明していた。
阿片窟みたいな横浜のスラムっぷりがすごかった。
子どもがかわいかった。
三船敏郎が昔の道具を床にばらまいて、かばんの加工をし始める場面がとてもかっこよかった。
犯人が医学生で、頑張れば数年でセレブ生活できるのに金持ちを憎むのがちょっと不自然だった。丘の上の家より、自分の病院の院長の方がずっと憎くなかったのだろうか。八つ当たりすぎる。
警察と犯人の人物像が希薄
総合70点 ( ストーリー:70点|キャスト:70点|演出:65点|ビジュアル:65点|音楽:65点 )
子供を誘拐をされそうになった三船敏郎演じる権藤の存在感が大きかった。犯人逮捕のために可能性を探ったり潰したりして地道に捜査をする警察も良かった。
しかし犯罪者と警察の人物像に焦点が当たっていなくて、どんな経緯があってどんな犯罪者が生まれたのかが伝わってこない。人も羨む医者の卵という出世街道まっしぐらの犯人が、何故そこまで劣等感に苛まれ、身代金の獲得だけでなく平気で人殺しまでするようになったのか。いくら夏暑く冬寒い安下宿に住んでいるといえど、もうじき金持ちになれるではないか。最後の言葉による告白だけだと納得できなかった。
また警察も犯人を追跡するための捜査についてはしっかりとした描写があって面白かったが、どんな人が捜査をしたのかの描写が少ない。だから警察の登場人物はただの捜査をする人に過ぎず、魅力的な人物像になっていなかった。結局権藤だけが目立っていた。
不可解なタイトル
学生の頃、名画座で観て以来、約40年ぶりにDVD で観ました。
何十年ぶりに観ると大概、こんなシーンあったっけ、とか記憶と異なることが多々ありますが、この作品は記憶通りでした。相当インパクトが強かったということでしょうか。贅肉を取りすぎたシナリオに古さを感じるものの、さすが黒澤といった作品です。
ただ、この『天国と地獄』というタイトルが内容と一致してなく、不可解です。
だって犯人は、今は苦学生かもしれないが将来を約束された職業です。主人公の生活を『天国』と言うが、自分もその位置に行ける立場にある。一般人から見ると、全く説得力が有りません。それに今の生活を『地獄』としても、それは希望を持てない犯人の個人的な問題。いっそのこと、それをテーマにすればもっと深い作品になったかもしれません。
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