天国と地獄のレビュー・感想・評価
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人の本質で現代でも変わらない
最近SNSでの特に有名人への誹謗中傷が社会問題の一つになっているが、犯人の動機もそれと本質的には同じで、表面的に見て、雲の上の天国にいる様に見える有名人を恨み、叩き、不幸があると喜ぶ。多くの人の根底にあるそんな感情が今誰もが平等に発信できるようになったことで、SNSに溢れているのだけではないか。ただそれを人の本質と理解しながらも、人を恨むのではなく自分にとっての幸せを目指すことが大事だとも気付かされた。
息が詰まる場面も多く、あっという間に見終わってしまった。
シンドラーのリストでもオマージュされたシーンを始め、刑事達が夜に車に乗っている時の灯りなど、見ていて美しいシーンも多く、このシーンどこかで観たような、と思ってしまうほど後に多くの映画シーンに影響を与えていることがわかる映画でした。
一級の作品。誘拐を扱った映画の原点にして頂点と考えると価値は計り知...
一級の作品。誘拐を扱った映画の原点にして頂点と考えると価値は計り知れない。犯人の動機が弱いと感じたが、描くとなると散漫になってしまうので正当な判断かと。地獄にいた三船は理想へと進み、一方犯人は死刑にという天国と地獄。
人間それぞれの地獄
映画館やDVDで何回も観ているのに、改めて観ると、これって黒澤版『罪と罰』のような気がしました。靴職人から身を興した重役に対する自己チューな逆恨みと、インターンでありながら冷酷な殺人者と言う矛盾を抱える悪役は、今観ても鮮烈な印象を受けます。クライマックスの面会室のシーンは、山崎努の鬼気迫る演技と叩きつけるようなシャッター音に打ちのめされるようでした。
救いはあるのか。
富裕層は天国で、貧困やアウトローは地獄なのか。
「天国と地獄」というのは、犯人目線の捉え方なのだろう。
結局、誰が救われたのか。そもそも救いなどないのかもしれないが。
身代金を渡すシーンは、緊迫感があり面白い。
警察が記者と交渉する場面は、いろいろ連想してしまう。
一部だけ画面に色を使っている場面、緊張感のある音楽、やっぱり黒澤映画は面白い。
アド街ック天国『黄金町』を見て
現金受け渡しのシーンだけは有名で知っており、あとは全くの無知状態で鑑賞しました。
『アド街ック天国』で黄金町が特集されたことが、見るきっかけになりました。
黒澤明監督の作品をじっくり見たのは『生きる』以来10年ぶりです。
全ての答えを表さずに、モヤモヤを残し、あとは私たちに考えさせるという締めくくりは好きです。
なぜ『天国と地獄』という題名なのか、私たちに考える余地を与えてくれます。
天国と地獄とは?
舞台は横浜、新田間川沿いの貧民街にあるボロアパートから見上げる浅間台の高台にそびえる豪邸のビジュアルは見事な映像表現で端的に物語の構造を示しています
下から見れば権藤の豪邸は天国の象徴
では犯人の住む低地は地獄なのでしょうか?
本当の地獄は黄金町の麻薬街の一角です
日本とは思えない光景として監督は強調して写します
本当に天国と地獄を見たのは権藤だけなのです
あくまでも彼の物語です
冒頭の密室劇は大金が彼に取って死活のものでかつ緊急性のあるもので簡単には支払えないものだという説明だけにあれだけの尺は必要ではありません
物語を通して彼が天国と地獄を味わうことを説明するためです
犯人の動機は怨恨でもなく、権藤との接点はボロアパートの窓から豪邸が良く見えるだけ
何故に権藤の豪邸を羨むだけで誘拐事件を起こすにいたったのかは一切説明しません
ラストシーンは拘置所の面会室です
シャッターが降ろされ権藤の後ろ姿で終わります
そこでもそれだけが動機だとして終わるのです
後に残された権藤の思いはどのようなものでしょうか?
正に不可解、理解不能でしょう
しかし、人生をかけた全てのものを失いながら、それでも復活をとげると努力を誓う彼の言葉が、犯人を取り乱せたのは間違いありません
地獄に引きずり下ろせなかったことが明らかになったからです
何故彼は天国を憎んだのか?
何故彼は左手の甲に L字の傷を持っているのか?
本作公開は1963年
正にオリンピック景気の真っ只中です
これから高度成長を遂げていく日本の象徴が権藤なのでしょう
だから権藤は過度にアメリカナイズされた生活をしているのです
光あれば影もあり、その経済成長に取り残されている人々もいます
それが彼のアパートのある低地の住民達です
彼がそれを代表しているわけです
では何故彼はインターンという設定なのでしょうか?
緻密な誘拐犯罪を計画実行でき、ヘロインによる殺人を行えるインテリである必要性からだけでしょうか?
インテリの若者なら1960年の安保闘争に彼は当然参加していたはずです
現代のマスゴミが報じる11倍に水増しした主催者発表の動員数ではなく、60年安保闘争は掛け値無しに13万人を国会周辺のデモに動員した大運動だったのです
今日の先鋭化した特殊な思想を持つ人間が運動しているようなものではなく、ほとんど全ての大学生が参加していたと思われます
この時の騒乱は激烈で機動隊との衝突で女子大学生の死者まで出たのです
それは本作公開のたった3年前のことなのです
犯人は年格好から見てその世代だと思われます
彼の左手の傷はそのデモ隊と機動隊との衝突で負ったものかも知れません
彼は安保闘争に敗れインターンに戻りました
しかしその後の総選挙では自民党を大勝利させ、そのような闘争を忘れて高度成長にひた走る国民を彼は憎んだのではないでしょうか
そしてその象徴として権堂を攻撃したのではないでしょうか?
その心理構造は70年安保闘争に敗れ、先鋭化した過激派に似ています
彼らは三菱重工業ビル爆破事件というテロを行ったのです
つまり本作はその予言とも言えるのです
監督はそのようなことは一切匂わせもしません
考えすぎかも知れません
しかし黒澤監督は時代の背景を常に作品の中に反映させる人なのです
そのように捉えれば
犯人にとって天国と地獄とは、安保闘争で権力に打ち勝てるかも知れない高揚感と、それに敗れ忘れさられようとしている現実
それが天国と地獄だったのではないでしょうか?
脚本はまっしぐらに一切無駄無く突き進みます
緊張感を途切らせることなくラストシーンまで突進します
見事としかいいようがありません
特急列車のシーンの緊迫感は列車の猛速度と合わさって強烈な印象があります
腰越の高台に二台の車が出会うシーンも素晴らしい展開です
仲代達矢の切れる警部役もプロフェッショナルな空気を見事に演じています
またそれが一目でわかるような初登場シーンの演出も流石です
捜査本部長役の志村喬が発言しそうで一言も発言しません
しかし彼の大きな存在感がそれでも演技できています
もの凄い役者です
犯人が行く無国籍の様相を示すクラブのシーン
もしかしたらブレードランナーの元ネタはこれかも知れないと思わせます
リドリースコット監督が本作を観ていない訳が絶対にありません
半世紀以上昔の伊勢佐木町と関内駅のガード下の光景も興味深いものでした
最高の警察映画でしょう
重層なる物語
かの有名な列車のシーン、煙突のシーン。いろいろなところで絶賛のコメントを聞き、読む。ここまで絶賛されると期待値が高まってがっかりするのではなんて言う思いは杞憂であった。
否、有名な場面以外にも名場面の目白押し。
たんなるサスペンスではない。
①誘拐事件、その顛末を追うだけではなく、権藤がどういう選択をするのか、ハラハラさせる。そして、”その”選択をした権藤を巡る人間模様。けっしてお涙頂戴の展開だけでなく、現実的な成り行き、ヒューマニズムを前面に押し出す展開、そのはざまで動く、権藤・権藤の妻・青木が人としての心情をついてくれる。
②誘拐ものの見どころ身代金受け渡しのテンポ。余計な場面を挟まない。今とは違う特急のシステムに目を見張らされるとともに、手に汗握らされる。
③そんな事件の進行の裏側で積み重ねられる捜査。群像劇のようでいて、各メンバーの動きがフーガのように、ハーモニーを奏で、一つの糸に紡ぎだされていく様が見事。
正直、それは個人の主観が入りすぎだろとつっこみを入れたいところはあるが、犯人を許すまじという気持ちにすっとまとまって、力が入ってしまう。
④そして、やっと姿を見せる犯人。満を持しての登場。胸が否が応でも高鳴っていく。その犯人を追い詰めていく様が見せ場。
起承転結という話の流れでいえば、①起・③承・②転・④結と持っていきたいところだと素人の私は考えてしまうが、監督はあえて動きのある②と、地道な③を逆転して見せる。筋の流れからすれば、確かに、①②と動きの取れない警察の反撃が始まる場面ではあるが、あえて地道に描き出す。その流れがあるから④の息詰まる、先の読めない展開から目が離せなくなるのであろう。
前述の名場面が、このストーリーの緩急のリズムの中で現れる。つい「おお!」と絶叫したくなる。
でも、それだけではない。
①での、権藤達と刑事たちの立ち位置のシルエット。絵画を見ているようだ。
③で見上げる権藤邸。天上の館のようだ。権藤邸からの街の眺めが、憶ションのようで、原題のバブルと重ね合わせてしまう。せせこましい場所、薄汚い公衆電話との対比がなんともいえない。
④で、犯人がさ迷い歩く場所。どこかメフィストフェレスに誘われて、地獄めぐりをしている気分になる。菅井さんがドアップで一瞬映るが、それだけなのに、忘れられないショットになる。そのような、アップと群衆の絵の巧みさ。目が離せない。
そして役者たち。黒澤組常連と言われる方々のみならず、この人って大滝さん?北村さん?黄門様だ!のような、名優たちがそこかしこに出演されていて、その点でもテンションがあがる。
志村氏が一言も発しないのに、その場を仕切っているさまに笑みをもらしてしまう(笑う場面ではないのに)。
主役も、はじめは権藤演じる三船氏がアクの強い面をまき散らし、私の中では枠の強い俳優の位置づけの仲代氏が捜査指揮をとる刑事(戸倉)役でありながら、スルーされそうなほど、普通の人を演じる。そのバランスが、犯人・権藤夫妻・青木のやり取りに緊迫感を与える。
なのに、③④の場面になると、毒気が落ちたように”いい人”のイメージになる権藤に比べ、戸倉のアクがジワリと・ジワリとにじみ出てくる。それが元々アクの強い役者たちを使った刑事たちへと広がっていく。
そして、山崎氏。最初の自分の才能に酔っている声だけの演技。途中の…(ネタバレになるので割愛)。ラストの強がりの演技。絶品。
これだけ巧みなストーリーテーリング、演出だが、他のレビュアーの方も指摘するように、犯人の動機に今一つ理解が及ばない。〇〇は殺して、〇〇は殺さない?人の生死を自分が決定する”神”になったつもりというのを描こうとしたのか?
結局、主要人物たちは本当に自分がやりたいことに落ち着く。自分が夢に描いていた姿を叶えた者。描いたものとは全く違う結果になった者、様々ではあるが。
後半の展開に見応えあり
十数年前に見た時は新幹線開業前の「特急こだま号」を利用した身代金受渡しのシークエンスまでが強烈な印象で その後は肩すかしを食らった印象があったのですが、時間の経過を経て再見すると 犯人像が明確になってからの後半50分の展開こそがスリリングで抜群に面白いと感じました。
高度成長期における日本のダークサイドを徹底的に暴いてみせる作品であり、特に横浜繁華街やスラムのシーンは現代ならば炎上必至の描写かも。50数年前も今と同じように東京オリンピックに向け日本のイメージアップ作戦真っ只中だったはずですが、よくここまで突き放して冷徹に描けたなー とビックリです。 さすが黒澤、当時を代表する演劇人が総動員されており、三船仲代山崎努はもちろん ちょっとしか映らない脇の俳優たちに至るまで アンサンブル演技の素晴らしさに圧倒されました。 戦後 日本中にはびこった薬物依存患者に目を背けず描いている点でも注目に値します。
・それぞれの展開が濃すぎて3本ぐらいの映画を一気見したような感じ ...
・それぞれの展開が濃すぎて3本ぐらいの映画を一気見したような感じ
・退屈な時間が1秒もない
・子どもたちの演技が大人の出すリアリティに負けてないの単純にすごいと思う
誘拐事件の現金受け渡しと犯人を追い詰めるスリルある展開。
単純に面白かった。143分もあるが、その長さを感じさせない。大きく二部構成になっており、一部は誘拐からの身代金の受け渡しでの犯人との攻防をスピード感たっぷりに描く。まず、会社を乗っ取るために必要なお金を身代金として渡さなくてはならなくなる権藤(三船敏郎)と運転手青木とのやり取りが面白すぎる。権藤の右腕として長年働いてきた者の裏切りなど、ただの誘拐事件だけではなく、そこに関わる人物達のそれぞれの状況がそのキャラクターも相まって、話を飽きさせなくしている。
そうとにかく飽きないのだ。脚本が秀逸。次から次へと起こる出来事に登場人物達がそれぞれの思惑で動く姿が実に面白い。
白黒映画だが1シーンだけ色がついている演出があるのだが、当時どのようにやったのだろう。知りたいところ。
惜しいなと思ってしまったところは犯人の動機。もっと深い怨恨みたいなのを想像していたため、ただの嫉妬だったのか、、、とガクッとなってしまった。ま、人を恨む動機なんて人それぞれだから良いのだけど、その動機が薄いためか地獄のインパクトが減ってしまったかなと言った感じ。
スピード感のある展開で一気に話が進んでいき、文句無しに面白い。犯行...
スピード感のある展開で一気に話が進んでいき、文句無しに面白い。犯行の動機は些細とも思えるが妙に説得力がある。まさに天国と地獄なのだろう。端役の刑事達が後の時代に活躍する俳優達なので今見ると豪華キャストとなっているのも一興。
天国も地獄
DVDで2回目の鑑賞。
原作(キングの身代金)は未読です。
会社での地位を守るのか、運転手の子供の命を救うのか?
様々な思惑と倫理観が交錯する権藤邸での議論が中心の前半から、警察の地道で堅実な捜査が誘拐犯人を追い詰めていく後半へと、常に緊迫感とダイナミズムを維持しながら、ノンストップで駆け抜けていく演出が秀逸の極みでした。
特急「こだま」を舞台にしたあっと驚く身代金受け渡しシーン、白黒画面に一色だけ色を着けるパートカラーのインパクトなど、印象的な場面が目白押しでした。横浜のスラム街のような路地裏の風景も、戦後の混乱が生み出したカオスの吹き溜りのようで、当時の様子を知る貴重な映像でした。
夏の、うだるような暑さのある日。クーラーなど無いボロアパートの自室から見上げる、まるで世間を睥睨し自らの威を見せつけるかの如くに建つ、丘の上の豪邸。
そこに住む者たちの暮らしを想像するにつれ、犯人からすれば自分の住む場所はさながら地獄に思えたことでしょう。
募る羨望と嫉妬の末、聡明な頭脳は天国の者たちを苦しめ、虚栄心を満足させんがための犯罪計画を練るに至りました。
しかし、そんな天国に住む者たちが幸せなのかと言えば、決してそうとばかりは言えそうに無いのが実際のところ。
パワーゲームに勤しみ、権謀術数の網を掻い潜り、殺伐とした空気の中を突き進むような、欲にまみれたものでした。
それは果たして天国と言えるか。豪奢な屋敷も単に見栄っ張りの象徴のようで、中身の伴わない虚飾の城に思えました。
天国と地獄は各々にヴィジョンがあって、己の価値観から羨んでみたり妬んでみたり。ですが一皮剥けば、どちらにも苦悩があり辛いことがある。一括りにするのは的外れかも…
現在の格差問題を当時から予見していたかのような、黒澤監督の冷徹な目線が反映されているすごい映画だと思いました。
[以降の鑑賞記録]
2019/07/27:DVD
※修正(2023/06/02)
ロープ
これってやっぱりヒッチ・コック?
簡単そうだけどリスクが高いのが誘拐
「キッド ナップ ブルース」まだ見てないな〜〜
知ってます?
タモリさんの主役映画。
このタイトルでキッドナップって言葉を知ったんですよ
何とか見たい、タモリさんだからじゃなくてタモリさんを使おうとした制作サイドに興味があるんですよ
だからきっと普通じゃないストーリーなんじゃないかと、胸が高鳴りいつまでもその存在を忘れられないんですってば
この映画みたいに有名なら何度でもリバイバルするでしょ
そうじゃない作品は忘れ去られておしまいですか。
レンタルあるなら教えてください。
とてもよかった
冒頭の自宅から電車まで舞台劇のように人が出入りするだけで場所が動かなかったがすごくスリリングだった。捜査会議も丁寧すぎるのではないかというくらい全部説明していた。
阿片窟みたいな横浜のスラムっぷりがすごかった。
子どもがかわいかった。
三船敏郎が昔の道具を床にばらまいて、かばんの加工をし始める場面がとてもかっこよかった。
犯人が医学生で、頑張れば数年でセレブ生活できるのに金持ちを憎むのがちょっと不自然だった。丘の上の家より、自分の病院の院長の方がずっと憎くなかったのだろうか。八つ当たりすぎる。
15年振りくらいで2度目の鑑賞ですが、どのシーンも印象的でほとんど...
15年振りくらいで2度目の鑑賞ですが、どのシーンも印象的でほとんど覚えてました。
前半身代金受渡しまでは満点の出来ですね。
犯人泳がせてる間に新たな犠牲者が出たら、今なら大問題ですけど当時は寛容だったんでしょうか。
黒澤明の現代劇では最高峰ですが、個人的には時代劇の方が傑作揃いで好きですね。
全56件中、21~40件目を表示