「天国も地獄」天国と地獄 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
天国も地獄
DVDで2回目の鑑賞。
原作(キングの身代金)は未読(※現在は読了済み)。
それぞれの思惑と倫理観が交錯する権藤邸での議論が中心の前半から、警察が誘拐犯を追い詰める後半へ、緊迫感を維持しながらノンストップで駆け抜けていく演出が凄まじい。
特急「こだま」でのあっと驚く身代金受け渡しやパートカラーのインパクトなど、印象的な場面が目白押しである。
横浜のスラム街の路地裏は、戦後の混乱が生み出したカオスの吹き溜りのようで、当時の様子を知る貴重な映像だった。
夏真っ盛りのある日。クーラーなど無いぼろアパートの自室から見上げる、世間を睥睨するかの如く佇む丘の上の豪邸。
そこに住む者たちの暮らしを想像するにつれ、犯人からすれば自分の住む場所はさながら地獄に思えたことであろう。
募る羨望と嫉妬の末、聡明な頭脳は天国に住む者たちを苦しめ、虚栄心を満足させんがための犯罪計画を練るに至った。
しかし、そんな天国に住む者たちが幸せなのかと言えば、決してそうとばかりは言えそうに無いのが実際のところだ。
パワーゲームに勤しみ、権謀術数の網を掻い潜り、殺伐とした空気の中を突き進むような、欲にまみれたものだった。
それは果たして天国と言えるのか。豪奢な屋敷も単に見栄っ張りの象徴のようで、中身の伴わない虚飾の城に思えた。
天国と地獄はそれぞれ思い描くビジョンがあって、羨んでみたり妬んでみたりする。だが一皮剥けば、どちらにも相応に辛いこともある。一括りにするのは的外れかもしれない。
天国も地獄とそう変わらないのだ。
現在の格差問題を当時から予見していたかのような、黒澤監督の冷徹な目線が反映された鮮烈な名作である。
[以降の鑑賞記録]
2019/07/27:DVD
※修正(2025/04/11)
コメントありがとうございます。
お褒めいただき恐縮です。
サスペンスとしての完成度が非常に高く、なおかつ人間ドラマが疎かになっていないという点で、とても優れた作品だなと思います。
何度でも観たくなる傑作ですね!