劇場公開日 2024年2月16日

「マチズムに満ちた世界に銀の銃弾で風穴を開ける二人の姿が涙で霞む90年代屈指のヤケクソロードムービー」テルマ&ルイーズ よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0マチズムに満ちた世界に銀の銃弾で風穴を開ける二人の姿が涙で霞む90年代屈指のヤケクソロードムービー

2024年3月10日
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鑑賞方法:映画館

今年はなぜかヤケクソ映画の4Kリマスター上映が相次いでいて、『エグザイル 絆』、『ブレイキング・ニュース』、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』に続いて4本目の鑑賞です。

本作を鑑賞した1991年といえば大学4年の年、時期的にはフレディ・マーキュリーの訃報を渋谷で『イニュエンドウ』を聴いてる最中に知らされた直前くらいだったかな。上映館は確か当時通い詰めていた新宿ミラノ座。当時も感動したつもりでしたが所詮は20代前半、本作が真正面からこじ開けた穴の大きさに全く気づいていなかったことに愕然としました。

まずテルマとルイーズが立ち寄るナイトクラブの名前が”Silver Bullet”、字幕でもきっちり“銀の銃弾”と説明されていてジンベースのカクテルの名前にもなっているそうですが元は狼男を倒す武器であり、転じて特効薬とか起死回生の秘策のような意味にもなっている単語。ここでルイーズが放つ一発の銃弾がマチズモに満ちた絶望的な世界をサンダーバードで駆け抜けることになる二人の物語の発端となるわけで実に冴えた命名です。ツカミにナイトクラブの名前を使うというのは先日観た『ノッキン〜』の冒頭に影響を与えているんじゃないでしょうか。ちなみにナイトクラブで演奏しているバンドのボーカルは80年代に女子に結構人気のあったチャーリー・セクストン。

二人の道中に出くわす自称大学生のイケメンJDに扮しているのはブラッド・ピット。当時は無名だったので全然注目してませんでしたが今見るとその美しさに改めて驚かされます。

テルマとルイーズの服装にも注目要。元々は週末だけの気晴らし旅行だったので二人はいかにもなバカンススタイルのいでたち。そこから始まって道中で物々交換でアイテムを入れ替えながら最後に辿り着くのが彼女達を痛めつけ続けた男達の典型的な服装。そこまでの道程で彼女達はどんどんと逞しくなり表情もそれにつれて晴れやかになり、世間知らずで人を疑うことを知らない主婦テルマとそんな彼女に振り回されながらもリードする勝気なウェイトレスのルイーズの立場も少しずつ変化し固い友情を紡いでいく。この辺りをしっかりと眺めていると129分はあっという間です。

次から次へと登場する男達はほぼ全員が男性優位主義を当然と思っているクズども。ただ一人彼女達を心配しているのが彼女達を追う立場の州警察のハル刑事(ハーヴェイ・カイテル)。彼女達の身辺を調査するうちに彼女達を追い詰めた事情を知り何とか彼女達を救おうと奔走する彼が放つ言葉が激しく胸を打ちます。

監督はリドリー・スコット。よくよく考えたら『エイリアン』、『プロメテウス』、『ハウス・オブ・グッチ』等逞しい女性を主人公に据えた熱いドラマをいくつも手掛けている巨匠が当時としてはアナクロだった極めてニューシネマ的なロードムービーの体裁で強烈な社会風刺を叩きつけてみせたことが“銀の銃弾”となり以降2000年代に至るまで量産されることになるヤケクソ映画の嚆矢となり後続のマイケル・ダグラス主演の『フォーリング・ダウン』、リドリーの実弟トニー・スコット監督作『トゥルー・ロマンス』に繋がります。そういえば『フォーリング〜』で唯一主人公の心情を理解する定年間近の刑事(ロバート・デュバル)のキャラクターはハル刑事とよく似ています。

ヤケクソ映画の最後は基本的に同じですが、ちょっとツイストした結末を迎える『トゥルー〜』を監督したトニー・スコットがその後ヤケクソ映画の主人公のような最期を遂げることになったことを思うとなかなか複雑な気持ちになってしまいます。

何はともあれヤケクソ映画は色々行き詰まった人生におけるまさに“銀の銃弾”ですので、未見の方も昔観た方もこの機会に是非。4Kリマスターなので映像は当然当時よりも遥かに鮮やかです。

よね