劇場公開日 1962年1月1日

「三十郎 on 将棋盤(笑)。 !(≧▽≦)!」椿三十郎(1962) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0三十郎 on 将棋盤(笑)。 !(≧▽≦)!

2022年3月9日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

興奮

萌える

笑った。笑った。
なんなんだ、この構図。
しかも、単なるおかしみを誘うだけでなく、椿と若者の関係性の変化を一目で見せてくれる。

随所に、そんなおかしみを誘う場面があふれている。
他にも、
 モグラたたきのモグラ?緊迫する場面からの一息。
 ひよこ、ぴょこぴょこ、三ぴょこぴょこ。あわせて、ぴょこぴょこ、六ぴょこぴょこ、もひとつついでに、三ぴょこぴょこ。随所に現れる若侍たちのひよこっぷりがかわいくもおかしい。
 その若侍も右往左往で部屋の中を歩き回っているが、老練悪だくみ組も、同じように狭い茶室をうろうろうろうろ。シンクロする。
 ついでに、若者チームの本陣と、老練悪だくみ組の本丸の位置関係。そこかあ…。
 家老の奥方・娘。 時間稼ぎに飯を所望すれば、女中に、自分のテンポを崩される椿。そのやりとり・間合い。
 押入れの侍。物語が進んでいくための情報提供者なのだが、その間合いややり方が可笑しすぎて…。

可笑しいだけではない、クライマックスの作戦遂行合図の優雅なこと!
そんな遊び感覚。

配役が絶妙。
 抜き身の刀に例えられる椿に三船氏。室戸に仲代氏。
 老練悪だくみ組に、ベテランの志村氏、藤原氏とくれば、もう一人は千秋氏かと思えば、清水氏。
 そんな灰汁の強い配役に対しての若侍。優等生なのだけれど、人の好いお坊ちゃん感満載の加山氏。熱血なのだけれど、早合点しすぎる唐変木の田中氏。生真面目すぎてスキを見せるのは(『ゴジラ』の)平田氏…。物語にボケの間ができる。
 そこに、おおらかな品を振りまき椿を戸惑わせる奥方に入江さん。娘に団さん。ほんわかさをだしながらも、だらしないのではない娘・女中の立ち振る舞いも見事。主筋とはずれた感性が物語に深みを持たせる妙。
 押入れの侍に小林氏。
 そして、悪役設定ではないのにラスボス感あふれる伊藤氏。彼の登場で、なんだかんだ言って、すべて彼の手の平の中で踊らされていたような、不思議な大円団を迎える。その貫禄。
 このバランス感覚のすばらしさ。
 最高級のエンターテイメントに昇華する。

だからと言って、コメディ映画ではない。
 物語はよくある上司の不正暴き。
 いきなり、クライマックスから始まる。ぐだぐだ、チーム9人編成ストーリー・不正を怪しむ場面や、圧政に苦しむ様など描かない。
 さあ、この窮地をいかに脱して、大転換を図るか。
 相手は知略に通じた大胆不敵な切れ者。
 対して、経験値の少なすぎる若者9人。
 圧倒的に不利。
 そこに現れた、経験値豊富な素浪人。
 物語が動き出す。

とはいえ、敵対する人々の間を行き来する椿。若者侍に加担すると冒頭で表明しているものの、室戸とは似た者同士、妙に気に入られ、立身出世の道をちらつかされる。蝙蝠の如く、あっちに行ったり、こっちに行ったり。
 心変わりするのかしないのか、いつ室戸達に計略がばれるのか、短慮な若者たちが椿を信じられずに計略が破城するのか、ハラハラドキドキさせられる。
 かつ、それぞれが知略を尽くして、お互いを出し抜き、解決を図ろうとするのだが、その掛け合いがアンサンブルになっており、個々のエピソードがそうきたかと面白い。
 その間に挟まれる緊迫したシーン。大立ち回り。殺陣。

この塩梅が見事。

そして、ほのぼのとした後の、有名なラスト。
緊張感にあふれた果し合い。
似た者同士ゆえの、互いへの想い。その結末。
切なすぎる。

緩急緩急緩急。なんという映画だ。

基本は、西部劇・講談。
風来坊がやってきて、その街の弱きを助け、もしくは秩序を正し、去っていく。
銃撃戦の代わりに、殺陣という違いはあるが。
だから、世界各国でも受け入れられやすいのだろう。社会の仕組みの違いというのはあっても。

でも、脚本・演出・映像・演技・音楽で、完成度が全く違ってしまう。
少しでも手を抜いたら面白くなくなる、技量が問われるジャンル・筋。

映画を知り尽くした制作陣の余裕を感じる。
俳句のように、遊び心を取り入れながらも、無駄をそぎ落として真髄のみを表現した作品。
文句なしの、誰でも楽しめる、エンターテイメント中のエンターテイメント。

(原作未読)

『用心棒』の続編の如く。けれども。
三十郎の格好よさを残しながらも、違う人物造形。
 『用心棒』では、人助けというより、引っ掻き回して楽しんでいる感じ。東野氏演じる居酒屋のおやじに諫められ心配される悪戯っ子。
 『椿三十郎』では、初めから人助けのために動く。敵の情勢を探るために”蝙蝠”的に動くけれど、その、四方八方への目配りが緊張感を高める。ここで、椿を諫める役が、女性(家老の奥方)というのが心憎い。
好敵手役(敵役とは書きたくないなあ)は、ギラギラした雰囲気を残しつつも、違う人物造形。
 『用心棒』の卯之吉は、切れ者なれど、新しい武器を手に入れて、己の力を過信してしまった、三男坊の甘ちゃん。三十郎へは、傾倒する兄弟を尻目に、決して三十郎に心を開かない。その上での、家族・その街での立ち位置を失っての対決。
 『椿三十郎』の室戸は、己の知略を駆使して、出世街道を上り詰めようとしている中間管理職。四方八方への目配りに忙しい。そんな苦労して掴んだ地位・夢や寄せた信頼をつぶされての対決。
 ラスト。難題は解決したものの、狂気を見せる『用心棒』。大円団の『椿三十郎』
これだけ違うテイストがありながらも「あばよ」のすがすがしさは変わらない。
 その才能に唸るしかない。

とみいじょん